ニコラス・ケイジ演じる父親役の「切ない笑い」がたまらない。ラヴクラフト原作のSFホラー『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』は万人が楽しめる!?

4:今日に通じる普遍的な恐怖を描いている

 本作の原作は、“クトゥルフ神話”の始祖としても知られるH・P・ラヴクラフトが執筆した、自身が宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)と呼ぶSFホラー小説だ。映画では、この原作から様々なアレンジが施されている。  例えば、一家の娘と水文学者の青年の間に淡いラブロマンスがあることは映画オリジナル。これにより、男兄弟しかいなかった原作よりも、青年が一家に協力する動機に説得力が増している。それでいて、原作のキモと言える恐ろしい展開はしっかり再現されている(時にはおぞましさが増している)のでラヴクラフトのファンも納得できるだろう。
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 何より、映画という媒体にしたことで、そのものズバリ“色”がついているということが大きい。赤と青が混ざり合ったネオンカラー的な色彩そのものが襲いかかってくるということ、目に見える形で狂気的な世界に巻き込まれたという感覚は、それだけで十二分にゾッとさせてくれる。  また、通常のホラー映画であれば殺人鬼やモンスターなど、明確な殺意や目的意識を持った者が脅威となるところだが、本作における“色”は、ただ宇宙からやってきて、生態系に無秩序に影響を及ぼしていくという、意思も何もない不条理な存在だ。その理解ができない、対処しようもなく、事態に翻弄されるしかない、という事実こそが恐ろしい。これは現実の公害や放射能、はたまた新型コロナウイルスにも当てはまる恐怖だ。  『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』は、メインのプロットはスタンダードなSFホラーであり、なおかつ古典と言える小説を原作としているのにも関わらず、これらの要素から十分にフレッシュな魅力を提供しており、なおかつ今日に通じる普遍的な恐怖を描いているのだ。やはり、イロモノ的なパッと見のイメージで侮ることなく、真面目な映画として観てほしいと願う。  ちなみに、ラヴクラフトの小説は、日本のマンガ家である田邊剛が、美麗なイラストによるコミカライズを手がけていたりもする。今回の映画の原作『異世界の色彩』も電子書籍・紙媒体の両方で販売されているので、活字が苦手な方はこちらに触れてみるのもいいだろう。

5:合わせてオススメしたい3本の映画

 最後に、本作と合わせてオススメしたい、連想した3本の映画を紹介しよう。いずれもグロテスクな描写もあるアクの強い作風であるが、それこそが魅力となっている。 1.『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018) マンディ 地獄のロード・ウォリアー 『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』と同じくニコラス・ケイジ主演、同じ制作会社SpectreVisionが手がけた作品だ。内容は「復讐鬼と化した男が狂気の集団を血祭りにあげる」とシンプルで、真っ赤な靄がかかった映像と重厚な音楽のおかげで、出口のない悪夢に迷い込んだような感覚に襲われる。できるだけ劇場に近い、集中して観られる環境で楽しんでいただきたい1本だ。 2.『アナイアレイション -全滅領域-』(2018) アナイアレイション  Netflix限定で配信されているオリジナル映画だ。不可解な現象が起こる謎の領域に女性の調査団が向かうと、そこには異常な景色が広がり、突然変異によって生まれたおぞましい生き物たちがいた……というSFホラーだ。悪夢的な世界観と、不条理な事態に翻弄される様が『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』に通じていた。こちらも、なるべく集中できる環境で観てほしい。 3.『ヘレディタリー 継承』(2018) ヘレディタリー 継承 『カラー・アウト・オブ・スペース 遭遇』における、家族の誰かが心身に異常をきたし、酷い目に遭う様を観て、“21世紀最高のホラー映画”とまで称されたこの作品を連想する方はいるだろう。こちらで心底イヤな気分にされてくれた(褒め言葉)重低音を響かせたサックス奏者でもあるコリン・ステットソンは、今回も極彩色の悪夢にぴったりな楽曲を提供している。どちらもビジュアルだけでなく、音にもこだわった作品であることを念頭において観てみるのも良いだろう。 <文/ヒナタカ>
雑食系映画ライター。「ねとらぼ」や「cinemas PLUS」などで執筆中。「天気の子」や「ビッグ・フィッシュ」で検索すると1ページ目に出てくる記事がおすすめ。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF
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