冒頭で触れたように、カトリックでの性虐待問題を扱った2本の映画で描かれていたのは宗教の内部で聖職者が信者を被害者として行った性犯罪であり、宗教組織が隠蔽に関わった「宗教的性犯罪」だ。
この手の要素があるものを宗教内での事件という意味で、筆者による勝手な造語だが「
インドア事件」、宗教と無関係の信仰活動外での性犯罪を「
アウトドア事件」として分類した。
インドア・アウトドアの内訳(藤倉調べ)
仏教者が容疑者となった性犯罪では、インドア事件の割合は12.5%。神道では22.2%、キリスト教では85.7%、占い・祈祷では87.1%。日本において
インドア犯罪(つまる宗教的性犯罪)の割合が高いのはキリスト教と占い・祈祷である。
仏教系性犯罪者はアウトドア派が大半で、『グレース・オブ・ゴッド』などで問題視されたような宗教的性犯罪の傾向が極めて弱い。6件だけなので、全て列挙しよう。★がついている3件は、未成年者が被害者である事件。▲は不起訴の続報があった事件だ。
・産経新聞2004.04.08〈住職が下着ドロ 八尾署逮捕 とんだお勤め檀家から帰りに1枚〉
・産経新聞2011.10.03〈僧侶、袈裟まくり下半身ご開帳 大阪府警、容疑で逮捕〉
★中日新聞2015.08.28〈準強制わいせつ容疑の住職逮捕 信長ゆかり円徳寺〉
★佐賀新聞2018.09.11〈60代住職、寺で盗撮か 習い事の女児が発見県中部〉
▲読売新聞2018.11.10〈東大寺僧侶 わいせつ容疑 書類送検 境内でバイト女性触る〉
★中日新聞2020.04.30〈住職が少女にわいせつ行為をした疑い〉
このうち2004年の
檀家の家から下着を盗んだ事件は、
法事のついでだったというだけ。2011年の
袈裟御開帳事件は路上で通行人を相手にした犯行で、
袈裟を使ったプレイだというだけだ。いずれも実質的な宗教性は見いだせない犯行だ。被害者の通報によりすんなり逮捕されており、
宗教組織による隠蔽の形跡も報道されていない。
宗教的性犯罪として扱うには抵抗を感じるが、法事や袈裟を性犯罪に利用されてしまっては宗教と無関係と切って捨てるわけにも行かない。筆者としては笑いながら「インドア事件」扱いにせざるを得なかった。
2015年の
円徳寺の事件は、
住職が寺でアルバイトをしていた知的障害のある未成年女性にわいせつな行為をしたというもの。同年10月に岐阜地裁が「被害者に知的障害があり、抵抗できないことを認識しており、身勝手な犯行で誠に卑劣」(中日新聞10月23日記事より)としつつも、示談が成立しているとして懲役3年、執行猶予4年の判決を言い渡している。
2018年の
東大寺の事件も同様で、東大寺の
上院院主だった僧侶が東大寺内でアルバイトをしていた女子大生の胸を触るなどした疑いだ。書類送検後、僧侶は全ての役職を辞任し僧籍を返上。被害者と示談が成立し被害届が取り下げられ、不起訴となった。
2つの事件で被害にあった女性が信者(檀家)かどうかは不明だが、
信仰の場というより「アルバイト先」としての宗教団体が性犯罪被害として報道されている。
神道関係でのインドア犯罪は2件だけだが、うち1件〈
みこの着替え姿、ビデオで盗撮 長田神社の元神職、容疑で書類送検 /兵庫県〉(朝日新聞2006.03.15)では、職員の巫女だけではなく学生アルバイトも使用する更衣室で盗撮が行われていた。円徳寺の事件同様、被害者にとって「勤務先」としての宗教団体が犯罪の現場となったケースだ。
2018年の
トイレ盗撮事件は、習い事の会場として提供されていた寺が犯行現場だったため、インドア犯罪としてカウントした。
『グレース・オブ・ゴッド』では、ボーイスカウトのキャンプが神父による性虐待の場の1つとして挙がっている。『スポットライト』では、神父が監督を務めていた高校のホッケー部員が被害にあったことも描かれている。
宗教者・宗教団体は宗教活動しかしないわけではない。様々な地域活動に関わることもあれば、地域活動のために施設を提供することもある。直接的には宗教性がない場面でも、
宗教者として社会と接する場が性犯罪の現場になることもある。その点では、仏教者による従業員へのわいせつ行為やトイレ盗撮事件の構図は、『グレース・オブ・ゴッド』や『スポットライト』で描かれた神父の性犯罪に共通すると言えなくもない。
しかし、日本において最大多数派の仏教者が容疑者となったこの種の事件は、上記の通り1件(トイレ盗撮)、多く数えても3件(従業員へのわいせつ行為2件を加えた)しかない。幼児への性虐待や宗教組織による隠蔽など、
『グレース・オブ・ゴッド』や『スポットライト』に描かれたカトリックの問題と完全に一致するような事件は、少なくとも刑事事件の報道としては皆無だった。
それはそれとして、
仏教者が容疑者となった事件では被害者が未成年者である割合が異常に高い。インドア事件6件の半数にあたる3件で未成年者が被害者であり、アウトドア事件も含めてカウントすると、愕然とするような結果が出た。
被害者年齢内訳(藤倉調べ)
パーセンテージを算出するまでもない。件数が多いので全て列挙する気になれないが、いくつか具体例を挙げる。
・共同通信2004.09.27〈少女買春で住職を逮捕 15歳高校生と愛人契約〉
・東京新聞2006.03.10〈住職兼保育園長 児童買春の疑い 警視庁が逮捕〉
・四国新聞2010.04.15〈中尊寺の僧侶を逮捕 女子高生にわいせつ容疑〉
・産経新聞2011.01.14〈女子中学生買春容疑で非常勤講師を逮捕〉
・中日新聞2017.01.11〈埼玉・高源寺住職 少年を買春の疑い 長野県警逮捕〉
・朝日新聞2019.02.28〈「自画撮り」送らせた疑いで住職を逮捕 /岡山県〉
容疑者と被害者との関係・接点がどのようなものかを分類すると、こうなる。
被害者との接点
信者・相談者が被害者となった事件の割合が高いのはキリスト教と祈祷・占い(これは後述する)。
仏教者が容疑者となった事件では、これが
8.3%しかない。逆に「ネット(SNSや出会い系サイト)」で知り合った相手が被害者である事件が25.0%、「通行人等」は41.7%で、合わせて7割近くを占める。件数で言えば計32件で、うち18件で未成年者が被害者になっている。
容疑別の統計でも、仏教者の「児童買春・児童ポルノ禁止法違反」容疑の多さは一目瞭然だ。「条例違反」容疑の中にも、青少年保護関連の条例違反が含まれる。
宗教者が容疑者となった性犯罪事件報道(容疑別)(藤倉調べ)
僧侶たちが街やネットに繰り出して、寺とも宗教とも関係ない文脈で少女たちを相手に買春をしたり児童ポルノを撮影したり盗撮をしたりする。これが、
仏教者が容疑者となった性犯罪の典型的なパターンだ。一般的なロリコン犯罪との違いはなく、
容疑者の職業がたまたま僧侶だったというだけ。
性犯罪というテーマにおいても、日本の仏教の空洞化、形骸化が見て取れる。悪い意味で「開放的」であり、全体としてはカトリックのような宗教組織の陰湿さはない。しかし、
これはこれで絶望的な気分にさせられる。
ちなみに仏教ではなく「その他」に分類しているが、教祖・大川隆法総裁が仏陀の生まれ変わりを自称している幸福の科学でも、教団職員が性犯罪で逮捕されたことがある。
・読売新聞2000.08.21〈「幸福の科学」職員逮捕 女性下着“追いはぎ”容疑/警視庁・大崎署〉
幸福の科学職員がマンションのエレベーター内で女性を押し倒して下着を奪いケガをさせたとされる、強盗致傷と強制わいせつの容疑だ。当時、都内で同様の被害が相次ぎ45件もの被害届が出され、容疑者宅からは女性用下着が約100枚見つかったと報じられた。この容疑者は大川総裁の運転手だったとする報道もあった。
幸福の科学における職員は「出家者」との位置づけだが、これは路上での連続強盗・わいせつ事件。仏教者が容疑者となった事件の大多数と同様の「アウトドア事件」だ。
金光教(神道に分類)でも2017年に1件、街中で女性にわいせつな行為をしたとされる「アウトドア事件」で鹿児島の教会長が逮捕されている。