常勤医が「気に入らないなら日本から出ていけ」。牛久入管でいまだ横行する被収容者イジメ

東京入管からの移送時に職員が罵倒・暴行!?

 こうした、きりがないほどの嫌がらせともいえる扱いをアンドレさんは受け続けた。知人との面会の後も、常勤医に「面会だとよくしゃべっていたね、本当は元気なんじゃないの?」と言われ、盗聴されているのかと怖くなった。  アンドレさんは、「本当に彼は医者だろうか? 医者が『国に帰れ』なんて平気で言うだろうか?」と疑っている。  疑うのも無理はない。アンドレさんは2018年10月、東京入管から牛久入管へ移送されるのを拒否して、トイレに隠れた。茨城県の山奥にある牛久入管へはみな行きたがらない。同年には、牛久入管で自殺者も出ている。 「なぜ連れて行かれるのか」とアンドレさんが聞いても、理由は教えてもらえなかった。複数の職員たちに引きずり出され、床に叩きつけられてから手首を思い切り捻り上げられた。あまりの痛みに叫ぶと「力をぬけ!」「抵抗しないか?」と激しく怒鳴りつけられた。  いくら痛みを訴えても、「うるさい、静かにしろ!」「大きな声を出すな」「静かにしろっつってんだよ!!」職員たちがよってたかって、何度も激しく罵倒した。この東京入管での制圧の件は現在、裁判で争っている。そして、牛久入管に移送された後も、上記のような虐待ともとれる非人道的な扱いをアンドレさんは受け続けている。

常勤医が「気に入らないなら日本から出ていけ」と発言

牛久の会の田中さんにあてたイラン人男性の手紙

牛久の会の田中さんにあてたイラン人男性の手紙

牛久の会の田中さんにあてたイラン人男性の手紙(続き)

牛久の会の田中さんにあてたイラン人男性の手紙(続き)

 もうすぐ収容5年目になるイラン人男性もまた、拒食症に苦しんでいる。それでも、みそ汁などの軽いものはなんとか食べられていた。もともとは独房にいたが、7月7日に部屋を移動させられた。今回は同じブロックに一人だけで、フリータイムで誰かに会うこともない。寂しいどころではなく、「このまま1人で死ぬんじゃないか、殺されるんじゃないか」といった不安な気持ちに襲われるという。  そしてやはり彼も、「常勤医が特にひどい」と証言する。 「その医者は、『気に入らないなら日本から出ていけ』と、ひどいことを言う。30歳代くらいで顔はかっこいい。でも心はない! 名前は教えない、(入管職員の認識)番号もついていない。嫌でも1か月に1度はその医者のところに連れて行かれる。  常勤医は具合が悪いところを診てくれるわけでもなく、『薬を整理する』と言って薬を減らされる。彼に会うと、嫌な気持ちになるだけ。  自分の病気を診てほしくて、毎日手紙を書きました。すると彼は『毎日でも書いたらいいよ、(書いても)私は気にしないから』と、いくら書こうが病気なんか診ないいというふうに言うのです。彼は本当に医者でしょうか?」  毎週水曜日に牛久入管で面会活動をしている「牛久入管収容所問題を考える会」(牛久の会)の田中喜美子さんはこう語る。 「収容所に残された被収容者たちへのイジメが酷すぎる。まるで憎いのかと思うほど。(2人以外にも)制圧されたり、病気を診てもらえなかったり、辛い目にあっている人はたくさんいる。常勤医も『本当に医者なのか?と』、被収容者のみんなから評判が悪い……」  入管ではこのような非道が繰り返されていて、改善の様子がいっこうに見えない。この施設に入ったが最後、職員や医者も人の心を捨てなければやってはいけないのだろうか? 外からみたらあってはならない人権侵害だということに、いつになったら気づいてくれるのだろうか。 <文・写真/織田朝日>
おだあさひ●Twitter ID:@freeasahi。外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)など。入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)を2月28日に上梓。
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