現実と数字を見れば一目瞭然。PCR検査特異度が99.9999%と99%でも「議論が変わらない」のデタラメさ

本邦独自エセ医療デマの中心は、ベイズ推定のトホホ誤用(後編)

 前回、偽陰性が大量に発生して感染者が社会の中を闊歩して医療崩壊というまことしやかに流布されてきた説が、ベイズ推定に現実と乖離したPCR検査の「感度」を適用するというトホホ誤用によるデマゴギーであることを指摘しました。今回は、「擬陽性が大量発生して陽性者の殆どは健康な人、検査をすると陽性者の九割は擬陽性で、隔離病棟に放り込まれるぞ!」という恫喝について解説します。  世界の趨勢だけでなく、国内を見てもそのようなことは生じておらず、PCR検査の本質的誤りによる擬陽性は、最近迅速検査による一件が報告されただけです。幸い、医師が自動判定による検査結果に疑問を抱き、再判定の結果、陽性判定は撤回されました。医師の診察、所見はこのようにたいへんに重要です。臨床がすべての基本なのです。7月17日現在の本邦での総検査数(一部抗体検査含む)は、62万件ですので、擬陽性率は実績で2ppm(1ppmは、百万分の一)未満となります。これにより簡単に検出できるヒューマンエラーによる装置操作失敗が原因のものを擬陽性に含めても実績でせいぜい十万分の一の桁未満となりますから、実績での特異度は、99.999+%となります。  この数値は、世界の実績ともだいたいあっています。むしろ自動化率が著しく低く、報じられている映像からは20年は世界に遅れている本邦のPCR検査態勢でこれだけの数値がでたことはたいへんに賞賛すべきことです。なお、世界で使われている全自動化PCR装置は、Made in Japanです。  はて、現在ネットで大暴れしているある啓蒙医によれば、偽陽性率は90%のはずです。ところが実際には数ppmです。これは誤差では無く、全く異なる現象か、大外れの間違いというほかありません。更に言えばゼロと言っていいほどに極めて希な擬陽性*も医師によって誤りが検出されています。 〈*海外には、3種検体を更に6ないし9に分割し、別検査組織での検査、ダブルチェック、トリプルチェックが行われており、ppmオーダである偽陽性率は事実上ゼロとなっている国もある。また、今後の連載で取りあげる予定だが、感染研のSARS-CoV-2 PCR検査マニュアルを読めば、擬陽性デマゴギーはあり得ないと分かる〉  これが前回から指摘してきているベイズ推定に誤った数値を入れたことによる極めて初歩的な誤りに基づいたエセ医療・エセ科学デマゴギーなのです。この誤りは、筆者を含む大勢の学者、医療関係者によって本人達へ散々指摘されているのですが、今のところ誤りが訂正されていません。誤りが指摘される前は単なる「誤り」ですが、大勢が長期間にわたり指摘してきても訂正しなければそれは「」になります。エセ医療・エセ科学デマゴーグの大量発生です。  ここで関連するキーワードと誤ったベイズ推定を再掲します。 【3つのキーワード】 罹患率:ある集団で新たに診断された罹患者(感染者)の数を、その集団のその期間の人口で割った値。 感度:実際に疾病にかかっている人が検査で陽性となる割合で、検査による疾病(感染)発見の能力を表す。値が高いほど良いものと考えるのが基本である。 感度=検査で発見された罹患者(検査陽性者数)/全罹患者(真の陽性者数)     特異度:疾病にかかっていない人が検査で正しく陰性となる割合で、非罹患者(未感染者)を陽性 としない能力を表す。値が高いほど良いものと考える。 特異度=検査で発見された非罹患者(検査陰性者数)/全非罹患者(真の全非感染者数) 〈参考:国立がん研究センター がん情報サービススクリーニング検査の効果指標
根本的に誤ったベイズ推定の典型事例

根本的に誤ったベイズ推定の典型事例
東京大学・保健センター魚拓

ジャパンオリジナル・エセ医療デマゴギーその2 特異度の操作

 ここで再び、東大保健センターの説明を引用します。 ”以下の仮想例(罹患率10%、感度70%、特異度99%)を想定して、具体的な計算法を記載します。” ”検査を受けた人1000人あたりの罹患者を100人(罹患率10%)とした場合、罹患している人のうち検査で陽性となるのは、100×0.7=70人、罹患していない人で検査が陽性となるのは、900人x(1-0.99)=9人、となります。 この場合、陽性的中率は、70/(70+9)=0.89となります。つまり、検査を受けた人のうち、真の罹患者は、89%ということになります。 この陽性的中率は、罹患率によって変化します。罹患率が低下すると、陽性的中率も低下することになります。PCR検査をより多くの人に施行すると、その集団内での罹患率は低下することが予想されるので、陽性的中率は低下、つまり実際には罹患していないにもかかわらず陽性と判定される人が増加することになります。”  実際には数ppmしかない擬陽性、しかも後日解説しますが、最新の擬陽性例は通常と異なり精度に問題のあるとおもわれる特異例です。それを全集団の9‰(パーミル:千分率)の擬陽性とベイズ想定によって推定したのですから、1000倍を超える過大想定となっています。  そもそも千人の検査集団で9人も擬陽性=健康な人を伝染病感染者と誤判定した場合、100万人では9千人もの誤診が発生します。合衆国では、これまでに4420万件の検査が行われています。これが9‰の擬陽性をだせば、擬陽性は約40万件となります。合衆国の陽性者累計は370万人ですので、全陽性者の一割以上が擬陽性というあり得ないほどに高い擬陽性率がもしも事実なら「報道の国」である合衆国は、大騒ぎになっています。合衆国のメディアは、日本のヘッポコ提灯メディアや、記事の品質が著しく低い一部医療メディアとは根本的に異なります。舐めちゃいけません。  ほんの少しでも現実を見れば、このベイズ推定が完全に誤っていることは自明なのです。なぜ、こんな裏付け無しに変数を定めた根本的に誤ったベイズ推定に全く疑問を持たずにその結論としてのデマゴギーを垂れ流し続けたのかは、全く理解できません。外電・外報、国内外の統計情報なり、感染研の公開情報、合衆国の公開情報に目を通せば、このようなあり得ない推定などポポイのポイなのです。犬も喰わず、猫はまたぎます。  繰り返しますが、現実と3桁ないし4桁も異なる推定は、その場で捨てねばならないのです。何かが完全に誤っています。
世界の総PCR検査数の推移

世界の総PCR検査数の推移(幾つかの国では抗体検査の試行がごく僅かに含まれる) 片対数である
国の選択はデフォルト表示に日本とブラジルを加えた
Our World in DATAより

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