キリンとミャンマー国軍の繋がりは他にもある。アムネスティ・インターナショナルによると、キリンの子会社であるミャンマー・ブルワリーは、2017年9月〜10月の間に、ミャンマー国軍及びラカイン州政府に少なくとも3万米ドル相当を寄付した。これは、ロヒンギャ・ムスリムに対する軍の民族浄化(の動き)が最高潮に達していた時期と重なる。(参照:
アムネスティ・インターナショナル日本)
アムネスティの指摘を受けて、キリンは子会社が2017年9月1日にラカイン州政府に対して6000米ドルの寄付をしたと発表。しかし、その寄付が「人道支援目的に使用されたことを最終的に確認するまでには至っていない」と認めた。(参照:
キリンホールディングス)
一方、キリンは2017年9月27日および10月3日の寄付について、前者は「2000米ドル分の米と食用油」を、後者は「社内外から2万2500米ドルの寄付金」を集めて、子会社が「被害者及びボランティアの方々に直接寄付しており、ミャンマー国軍にわたったという認識はありません」と説明した。(参照:
キリンホールディングス)
しかし、アムネスティ・インターナショナルによると、キリンはいずれも文書の証拠を提示していない。
ヒューマン・ライツ・ウォッチを含む4つの人権団体・人道支援団体は、5月22日付でキリンにMEHLとの関係を断つよう書簡で求めた。MEHLとのパートナーシップは、キリンの人権方針に反するうえ、同社の世界的なイメージに悪影響を及ぼすものとこれらの団体は主張した。(参照:
HUMAN RIGHTS WATCH)
同社の「キリングループ人権方針」によると、「国際人権章典」や「国連ビジネスと人権に関する指導原則」を尊重するとしている。その場合、キリンは自らの事業が人権侵害の発生または助長させることを阻止する必要がある。(参照:
キリンホールディングス)
また、同社が人権侵害を「助長していない場合であっても、取引関係によって企業の事業、製品またはサービスと直接的につながっている人権への負の影響を防止または軽減するように努める」必要があるのだ。(参照:
国際連合広報センター)
キリンは6月5日付のニュースリリースで、MEHLに対して「適切な文書の提供を繰り返し求めてきた」が、「現時点では残念ながら、新たな情報や文書の提供を受けておりません」と述べた。また、キリンはMEHLとの2つの合弁事業の「資金の使途を明らかにするため」に、第三者に調査を頼んだと述べ、「MEHLとの事業上の関係の検証の一環として、ミャンマーにおける合弁事業の持分所有について複数の選択肢を併せて検討」していくとした。(参照:
キリンホールディングス)
たしかにキリンは、アムネスティ・インターナショナルやFFMによる指摘を受けて、改善に向けて取り組んできたと言える。ヒューマン・ライツ・ウォッチを含む4団体らの書簡に対する返事では、「ミャンマーでの事業運営に関して国際社会が提起した懸念に対処していく」としたうえ、「ミャンマーの人びとにとってポジティブな結果をもたらすように、当社がとりうる全ての取り組みと選択肢を検討」していると述べた。
しかし、キリンはもっと改善できるはずである。早急に軍系企業のMEHLと関係を断ち、第三者による調査結果を公表すべきだ。世界的なブランドを誇るキリンにとって、具体的かつ透明性が担保された行動をとることが、傷ついた自らの評判を回復する唯一の方法なのではないだろうか。
<取材・文/笠井哲平>
かさいてっぺい●’91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。’14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。’18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている