夫の手記をおさめたパソコンを前にする赤木雅子さん
他にも、冒頭のLINEの直前の6月17日。私は本の末尾を飾る締めの文章を赤木雅子さんに依頼していた。LINEで送られてきたその文章には、雅子さんが私に俊夫さんの手記を託した理由として次の一文がある。
「夫のことをいちばん理解してくれそうで大きな組織(嫉妬深い男の社会)に苦慮した『大阪日日新聞』の相澤さんに手記は託そうと決めました」
嫉妬深い男の社会。鋭いその言葉に私は感服した。森友の公文書改ざんに関わった佐川さんをはじめとする財務省や近畿財務局の人たちは、誰一人として真相を明らかにしようとしない。改ざんのもとになった国有地の巨額値引きにしても、誰も真相を語らない。なかったことにしようとする。
それはなぜか? 上を見ているからだ。上司らの意向をうかがい、取り入って我が身を守りたい、できれば出世したいと考えているからだ。実際に俊夫さんの直属の上司たちは「全員異例の出世」をしていると告発する文書が寄せられ、内容は事実だった。
赤木俊夫さんが「いちばんの親友」と信じていた同期の男性職員も、雅子さんの意に反して麻生財務大臣の墓参の話をつぶし、その後出世した。出世したいばかりに古い友人も裏切る。そういうことを指して赤木雅子さんは「嫉妬深い男の社会」と書いたのだ。
産休中の小川彩佳キャスターが自らインタビュアーを買って出た
赤木さんをインタビューする小川彩佳キャスター
裁判を起こした後、多数の報道機関から取材依頼が舞い込んだ。私は、雅子さんの「真実が知りたい」という願いを多くの方に知ってもらうためにも、取材はできる限り受けた方がいいと勧めてきた。しかし、マスコミに恐怖感がある雅子さんはなかなか踏み切ることができなかった
そういう中で、ふと雅子さんがもらしたのが「女性に取材してもらいたい」という言葉だった。女性なら男社会の犠牲者同士、安心して話ができるのではないかと考えたのだ。
7月1日、雅子さんとの共著書の校了作業が佳境を迎え、私は文藝春秋本社で作業をしていた。そこに、最新号で雅子さんのLINEに関する記事を掲載した週刊文春の女性誌版『週刊文春WOMAN』(季刊誌)の編集長が現れた。「赤木さんの記事、女性にすごく反響が大きいです。共感を呼んでいますよ」
この編集長も女性だ。私は答えた。
「それはよかったですね。赤木さんはこの本を女性に読んでほしいと言っているんです。取材もできれば女性に受けたいと話しています」
それを聞いて編集長はすかさず反応した。
「そうなんですか!? じゃあ女性に取材してもらいましょうよ。私、『ニュース23』の小川彩佳キャスターを知っていますから、連絡してみます」
ここから話は早かった。編集長の打診に小川さんから「ぜひ」と返事が届き、私は大阪に戻って赤木雅子さんに話を伝えた。小川さん本人がインタビューするというのは雅子さんにも魅力だった。こうして7月11日、都内のホテルでインタビュー取材が実現した。
他社の取材なので内容には触れないが、終わった後に赤木さんは「きれいな人やわ~。見とれちゃった。話し方もすごく柔らかかったし、気づかってくれたので、いろんなことを話すことができました」とほっとした様子だった。
取材後、私は小川さんに尋ねた。「小川さん、産休中ですよね。きょうの勤務はどういう扱いになるんですか?」「どうなるんでしょうね?」と笑顔で答える小川さん。そんな細かいことは、赤木雅子さんに話を聞けるという重大事の前ではどうでもいいという笑顔のように見えた。