写真/時事通信社(陸上自衛隊西部方面隊提供)
「もはや予測不可能な領域に」 専門家も危惧する豪雨の過激化
1300年の歴史を持つ風光明媚な山あいの温泉街を、濁流が襲った。
大分県日田市天瀬町で救助活動にあたった消防団員は、取材に力なく語った。
「7月7日の未明、温泉街のすぐ脇を流れる玖珠(くす)川が危険水域に達し、すぐに現地に向かいました。大雨のなか土嚢を積んで対処しようと試みたのですが、増水に追いつかずまったく歯が立ちませんでした。川から水が溢れるとものすごいスピードで温泉街に流れ込み、そこら中が冠水してしまったのです。川沿いに住む70代の女性は家から物が流れ出してしまい、それを追いかけて外に出たところ激流で身動きが取れなくなってしまったそうで、結局、流れにのみ込まれてしまった。近隣に住む多くの人々が一部始終を見守るなか、救助しようにも近寄ることができず、なす術もなく濁流に流されてしまったそうです」
7月上旬、九州を襲った豪雨による死者は判明しているだけで63人、浸水は1万2000棟を超えた(7月11日現在)。「令和2年7月豪雨」と名づけられた今回の豪雨は福岡、岐阜、長野県でも観測され、各地で甚大な被害を及ぼしている。
今回の豪雨の特徴は、「長時間、激しい雨が降り続くこと」だ。前出の消防団員が語る。
「外に出るのをためらうほど強く降りしきる雨が、一日中ほとんどやまないんです。激しさもさることながら、降っている時間がとにかく長い。ひどい地区ではこの1週間の降雨量が年間雨量の半分に達したそうで、今後の土砂崩れが心配です。福岡から大分にかけては山間部を走る道路が多いのですが、皆、通らないようにしています」
これだけの雨量は専門家にも想定外だった。『
激甚気象はなぜ起こる』(新潮社)の著者で名古屋大学教授の坪木和久氏は、「もはや予測のできない域に達してしまった」として次のように語る。
「激しい雷雨は積乱雲によって起こされますが、今回の豪雨を個別に見ると、梅雨前線の存在と相まって積乱雲が連なる大規模な線状降水帯が形成され、予測できないほどの雨量になりました。その背景には、地球の温暖化があります。気温が上昇すると海上の水蒸気量が増え、積乱雲が発生しやすくなる。これがたくさんできて連なっていき、激しい雨が長く続くという事態が起こったのです。今回は熊本や岐阜が大きな被害に遭いましたが、今の日本ではどこにいても豪雨の被害に遭う可能性がある。異常気象は今後も増えていくでしょうし、それに伴う自然災害が起こることも知っておくべきです」
地球温暖化といえば、’06年にアル・ゴア元副大統領のドキュメンタリー映画及び著書『不都合な真実』でセンセーショナルに取り上げられ、世に広まった環境問題である。排出されたCO2が温室効果を生み、地球の放熱を妨げるため気温が上昇してしまう現象だ。同作は書籍化もされているが、その翻訳者で大学院大学至善館教授の枝廣淳子氏は「
残念ながら、地球温暖化は当時より今のほうが悪化しています」と語る。
「『不都合な真実』の公開当時は、『地球温暖化は将来的に大きな問題を引き起こすけれど、ここで頑張ればなんとか改善できるだろう』という論調でした。問題が起きるのは未来の話と考えられていたんです。ところがこの十数年、私たちは温暖化を改善する有効な手立てを何も講じてこなかった。CO2の排出量は増え続け、温暖化は一段と進み、その結果として『大きな問題』をリアルタイムで被ることになってしまったのが今の状況でしょう。産業革命が起きる前との比較ではすでに1℃近く気温は上がっていますし、国立環境研究所は日本の気温上昇について『このままでは今世紀の終わりには気温が4~5℃ほど上昇してしまう』と予測しているほど。気温が上がると雨の降り方はより激しくなるので、昨今九州や東海地方で起きたような水害はどんどん深刻になっていくと思います」
出典)IPCC第5次評価報告書 全国地球温暖化防止活動推進センターより
2005年以降の予測部分は複数の気候予測モデルに基づく予測データから算出。1986~2005年の平均値を0.0℃とし、乖離を示した。赤の予測部分はRCP8.5(2100年における温室効果ガス排出量の最大排出量に相当するシナリオ)であり、青の予測部分はRCP2.6(将来の気温上昇を2℃以下に抑えるという目標のもとに開発された排出量の最も低いシナリオ)での予測値だ