コロナ禍を機に「弱さ」と「いのち」を大切にした、誰も仲間外れにしない世界に

「生きている」という事実だけで全員に存在理由がある

社会イメージ 今回のコロナ禍の中で感じたたことは、「お金がないとどうにもならないシステムをつくってしまった」ということです。だからこそ、経済活動がストップしたことで大きな混乱が起きています。それは「お金を中心にした社会づくり、システムづくりには限界がある」ということではないでしょうか。お金がなくても危機を乗り超えることができるような、何か別のものを中心にした新しいシステムへと移行していく必要があるのではないだろううかと強く思います。  そのためには、「食」によって「いのち」が続いている基本に立ち返り、「食」や「命」を中心とした社会システムへと移行していく必要があるのだと思います。もちろん、「お金」は交換尺度として必要ですので、その存在を否定しているわけではありません。  ただ、本来的には必ずしも全員に必要なものではありませんし、それがなくなると生存できない社会は本末転倒です。大事なことは、「お金」よりも、わたしたちそれぞれが「いのち」と関連あることに取り組むような社会を創っていく、ということではないでしょうか。 食イメージ 具体的には、「兼業農家」と「兼業医療家」にだれもが取り組むような社会を提案したいと思います。もちろん、別の仕事や役割があって構わないのです。ただ、必ず「いのち」に関わる役割を社会の中で担う、ということです。そして、どんな人も仲間外れにしないように、よく考えた仕組みを作ることです。全員に居場所がある、そのためにはどうすればいいかをともに考えていく、ということです。  何もできない人は存在する必要がない、生産性がない人、お金を生み出さない人は居場所がない……など、そうした考えは、あまりにも浅はかです。 「いのち」を与えられて生きているものは、「生きている」という事実だけで全員に存在理由があります。むしろ、それで十分だと思えない社会のほうが病んでいます。

「弱さ」と「いのち」を大切にして、誰も仲間外れにならない世界へ

次の社会イメージ 岩崎航さんという詩人がいます。3歳で進行性の筋ジストロフィーを発症し、現在は生活のすべてに介助が必要な状態となっています。ベッド上で過ごしながら、命の限り詩を発表し続けている方です。 ※   ※   ※ 「貧しい発想」  管をつけてまで  寝たきりになってまで  そこまでして生きていても  しかたないだろ?  という貧しい発想を押しつけるのは  やめてくれないか  管をつけると  寝たきりになると  生きているのがすまないような  世の中こそが  重い病に罹っている  岩崎航『点滴ポール 生き抜くという旗印』(ナナロク社)より ※   ※   ※  次の社会はまったくの未知数です。もともと、先に道はありません。だからこそ、今からの一歩一歩こそが結果的に道になるのだと思います。そして、今からの一言一言こそが、新しい社会のリアリティを生み出していくのだと思います。 「弱さ」と「いのち」を大切にして、誰も仲間外れにならない世界へ向かっていく時期なのではないでしょうか。 【いのちを芯にした あたらしいせかい 第4回】 <文・写真/稲葉俊郎>
いなばとしろう●1979年熊本生まれ。医師、医学博士、東京大学医学部付属病院循環器内科助教(2014~2020年)を経て、2020年4月より軽井沢病院総合診療科医長、信州大学社会基盤研究所特任准教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、東北芸術工科大学客員教授を兼任(山形ビエンナーレ2020 芸術監督 就任)。在宅医療、山岳医療にも従事。未来の医療と社会の創発のため、あらゆる分野との接点を探る対話を積極的に行っている。著書に、『いのちを呼びさますもの』『いのちは のちの いのちへ ―新しい医療のかたち―』(ともにアノニマ・スタジオ)、『ころころするからだ』(春秋社)『からだとこころの健康学』(NHK出版)など。公式サイト
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