一方、自粛期間中はどの飲食店もテイクアウトやデリバリーを始め、現在でも継続している店は少なくない。しかし、逆に赤字になることもあるという。
「最初、弁当を1000円とやや高めにしたせいで常連以外には売れず、今は質を落として600~800円くらいにしてます。それでも人件費ですべて飛んでしまう。やっぱりお酒が出ないと利益はほぼない」(都内の和食店店主)
飲食店事情に詳しいグルメジャーナリストの東龍氏は次のように分析する。
「客単価が夜、1万2000円を超えるようなお店、客単価が低くても席数が多いお店は、テイクアウトやデリバリーでは埋めきれません。また、高級店になればなるほど、作った料理がどのように運ばれるのかを気にするため、ウーバーや出前館の導入に二の足を踏んでいるようです」
「新しい生活様式」が推奨されている現在、ルールを守って店舗運営を行うと、客席数が減るだけでなく、飛沫よけのビニールシートや除菌剤など、これまで不必要だった経費やスタッフ配置で、余計なコストが増えるばかり。危機を乗り越えたからといって安泰なわけではなく、これからが本当の正念場となりそうだ。
「全国で飲食店は約45万店あり、うち10万店が東京にあります。圧倒的に数が多く、競争も激しくなった結果、東京をはじめとした首都圏の飲食店は信じられないほど安い値段でおいしい料理と丁寧な接客を提供しています。日本の外食産業は従業員の犠牲の上に成り立っているといえます。営業自粛に加え、負担が重くなると7月以降年末にかけ、廃業や破産を余儀なくされる飲食店は増えるでしょう。ただ、逆にレストランの価値が見直されるいい機会にもなると考えています」(東龍氏)
7月に入り、東京では感染者数が100人を超す日も出てきている。第2波や東京アラートの再発動になれば、持ちこたえられない飲食店が急増するに違いない。
▼東京・神保町/席数:50/カレー店
「4月に入り休業要請が出ると潮が引くように人がいなくなった。その時点で売り上げは50%減。これはもたないと思い同月末に決断しました」。サラリーマンのランチ利用を主な売り上げとしていたことと、前菜とデザートのブッフェをウリにしていたことが敗因
▼東京・御茶ノ水/席数:50~70/低価格居酒屋
飲み放題つきの宴会が3000円~と低価格で、回転数で稼ぐ学生ターゲットの居酒屋。卒業・入学シーズンに年間売り上げの大半を稼ぐ。「大学はオンライン授業となり学生が街から消えた。戻ってくるのは秋ごろと予想されたのでGW明けに閉店を決定しました」
▼東京・赤坂/席数:80/中華料理店
主に中国からのインバウンドで成り立っていた。ツアー客の予約で売り上げの予測を立てられるのが強みだったが、今年に入ってキャンセルが相次ぎ、新規の予約も入ってこない状況に。すでに2月の前半で売り上げが6割以上減。3月には廃業を決めたという
▼東京・神田/席数:70~80/居酒屋ダイニング
「3月の売り上げは例年の30~40%。4月に入ると10%台に。アルバイトを減らし、オーナー夫婦が厨房やフロアに立ちました。プール金も少なかったので、1店舗50万~60万円かかる家賃がダイレクトに響いた」。4店舗展開していたが3店を廃業。1店を残した
▼大阪・ミナミ/席数:10/スナック
「夜の店は客足が遠のくのが早かった。2月最後の週の売り上げが通常時の半分程度。これはやばいと思うようになった」。マスターの年齢はすでに50代後半。親の介護や自身の健康を考えた時、続けていくことにしんどさを感じ、3月末日に退去通知を出した
大阪名物だった新世界にある老舗ふぐ料理店(1920年創業)も6月に廃業を決めた 写真/時事通信社
▼東京・新小岩/席数:20/ラーメン店
「ウチは夜5時から朝5時までの夜間が稼ぎ時。時短要請で午後7時までしか酒を出せなくなったのがキツかった」。見る見る貯金がなくなり、店の仕入れもできない状態に。クレジットカードのキャッシングも限度額に達したため、現在、自己破産も検討中だ
▼東京・新橋/席数:60~80/総合居酒屋
撤退決意時(4月)の店の売り上げはコロナ前の20%以下。店の売却を検討しているが話がなかなか進んでいない。「今も営業を続けている同業は、東京アラートの解除以降、新規感染者数が50人以上で推移し始めると一気に客足が遠のくと嘆いていたよ」
▼東京・新宿/席数:12/バー
「周囲の居酒屋やスナックでは6月以降、プチボッタするところも出てきている。何年もやってきた個人経営の店が、一見客や酔客相手に2割ほど会計を上乗せしている」。良心の呵責に耐えきれず、ぼったくりに手を出せなかったバーの店主は廃業の道を選んだ
<取材・文・撮影/中山美里(オフィスキング) 写真/時事通信社>