このように強い不安を感じながらも、冒頭で触れたように、行政に助けを求めるアクションを取った人は2割ほどにとどまる。
今井さんはその原因を以下の4つに分類する。
「心理的な障壁」:自分が困っていると認めたくない、行政への抵抗感
「周囲のまなざし」:支援を求めたことを周りに知られないか不安
「物理的な制約」:窓口の開所時間が生活と合わない
「情報の届け方」:どんな支援があるのかわかりにくい
今何も困っておらず落ち着いた精神状態にある人からすると、助けを求めることへの心理的な障壁や周りの目を気にすることが不可解に思えるかもしれない。だがもし経済的に厳しい状態が続き、生活不安を抱えながらの暮らしが常態化していたらどう感じるだろうか。自分を恥じたり、現状を認めたくない、周りに迷惑をかけそうで言いにくい、などと思ったりしてもおかしくない。支援をしてくれる人はたくさんいるし、制度もある。だが行政からのサポートを受けるには、自分で窓口に出向き「困っています」と伝えなければならない。
これを「申請主義」と呼ぶが、「助けて」が言えない人にとってはプレッシャーになる。苦しさを誰にも打ち明けられず自分だけが抱えてしまった人は、公的な支援の輪から取り残されてしまう。
申請主義に対して、支援が必要な人が窓口に相談に来るのを待つのではなく、サポートをする人が支援を受ける人と関係を作って適切な援助をすることをアウトリーチと言う。こども宅食はこのアウトリーチ型の支援だ。
親の心境に配慮し、申し込みはネットでも可能。こども宅食を利用しているとわからない工夫をして食品が配達されるため、親が感じる「周りに知られるのではないか」との不安を解消してくれる。
各地のこども宅食の実施には、実施するNPOや社会福祉法人等の他に、自治体や企業など、複数の団体が関わる。困りごとを見つけたときの支援活動は、自治体の支援窓口や相談支援をおこなっている民間団体等、専門窓口につなぐ。
生活不安を抱えた30代シングルマザー。看護学校に進学し、「生活が一変した」と喜びの声
こども宅食は申し込みをした家庭に食品を届けるだけではなく、利用者との関係づくりを通じて継続的なサポートに繋げる。毎回の配達時にスタッフが利用家庭の様子や会話から「困ったことや変わったことがないか」を確認し、必要に応じて専門窓口に繋ぐ。
支援をする側と受ける側との間に関係性が築かれているかどうかの影響は大きい。たとえばひとり親が行政に支援を申し出に行くと、離婚理由や家庭環境について職員から質問される。それ自体は必要なことなのだが、何の繋がりもない初対面の職員にプライベートを話すことに抵抗を感じるのは当然だ。こうした状況を不快に感じ、初めから行政を頼りたがらない人もいる。だが相手が顔見知りや信頼関係を築いている人であれば、話しやすくなる。
「過去にはこのような事例がありました。ご利用者は、小学生のお子さんと二人暮らしの30代シングルマザー。失業したため失業保険と貯蓄で生活することに不安を覚え、申し込みされました。その後女性が仕事で悩んでいることを知り、ひとり親の経済的自立を支援する高等職業訓練給付金制度を説明しました。女性は看護学校へ進学し、『始めは食材をもらうつもりで申し込みましたが、生活が一変しました』と喜ばれています」(今井さん)