幸福の科学、コロナ禍に発行された霊言本で、「ポア思想もどき」が出現

幸福の科学・東京正心館

「新型コロナウィルス感染撃退祈願」を宣伝する幸福の科学・東京正心館

無神論者はコロナに罹って早く死んだほうがいい?

 新型コロナウイルスの感染が世界で拡大する中、幸福の科学の教祖・大川隆法総裁が、オウム真理教による「ポア思想」を彷彿とさせるメッセージを「霊言」の体裁で発信している。オウムの同等の殺人教義とまでは言えないものの、注意が必要だ。  大川総裁は今年1月以降、コロナ関連の霊言や法話を連発し書籍化している。7月5日現在で発刊予定のものも含めて14冊。呼び出された霊は、複数の宇宙人、国之常立神、エドガー・ケイシー、北里柴三郎、釈尊、イエス・キリスト、松下幸之助、天照大神、ローマ教皇、P.F.ドラッカー、長谷川慶太郎と言った調子だ。  「ポア思想もどき」は、その中の1つ、『大恐慌時代を生き抜く知恵 松下幸之助の霊言』に登場した。 〈神様・仏様を信じない人を護る必要はないから。無神論・唯物論を広めて、それでガチガチになってる人は、死んであの世で地獄に行く人達ですけど、早く死なせてあげたほうが、罪が浅くなって天上界に上がれる率が増えるので、早く罹ったほうがいいかもしれない。〉(同書より)  オウム真理教教祖・麻原彰晃による1989年の説法と比較してみよう。 〈例えば、Aさんという人がいて,Aさんは生まれて功徳を積んでいたが慢が生じてきて,この後悪業を積み,寿命尽きるころには地獄に堕ちるほどの悪業を積んで死んでしまうだろうという条件があったとしましょう。(略)ここで,例えば生命を絶たせた方がいいんだと考え,ポアさせた。大変な功徳を積んだことにならないですか〉(平成16年2月27日東京地方裁判所判決)  死後に地獄に落ちるような人たちは早く死んだ方が本人のためという論法は、大川総裁も麻原も同じ。しかし麻原によるポア思想は積極的に殺すことを奨励するもので、坂本弁護士一家殺害事件でも地下鉄サリン事件でも、麻原は「ポア」という言葉を用いて犯行を指示し、実行犯たちにとって自己正当化の論理となった。単なる思想ではなく、信者に殺人を実行させる道具だった。  一方で大川総裁の「ポア思想もどき」は、殺すことを奨励してはいない。「死んだらいい」という願望を述べているだけだ。  とは言え、いままで「無神論者」「唯物論者」を適ししてきた大川総裁が、人々の死と具体的な死に方を期待する発言をしたケースは、筆者自身、記憶にない。これまでにない変化のように感じる。

恐ろしいのは思想より行為

 もっとも、思想だけでは人は殺せない。オウム真理教も、たとえば教祖・麻原彰晃の①支配者志向、②指導者の絶対視(グルイズム)、③終末論等々の思想、④教団の利害、⑤遵法意識の欠如が、⑥実際の人権侵害・違法行為につながった。ポア思想も重要ではあるが、こうした諸々の要素の一角にすぎない。  そもそも、あらゆる宗教は教を広める(あるいは人々を教えに従わせる)ことで幸福や救済を目指しているのだから、広義に解釈すればそれも「支配者志向」と言えなくもない。神や開祖を絶対視することも宗教ではむしろ当たり前だし、終末論ならキリスト教にだってある。「イスラム法」のように教義が世俗の法律以上に重視されるケースもある。ポア思想も、オウムが曲解しているとの指摘もあるがもとはチベット仏教からの流用だ。  教義や思想の個別の要素だけをあげつらって「はいカルト!」などという判断をしていては、あらゆる宗教が「カルト」になりかねない。そうではなく、実際の行動の有無や、教義がそれと結びつく構造があるかどうか、あるいはその度合が、「カルト」「カルト性」の判断基準だ。  その点で言えば、幸福の科学はすでに、テロや殺人といった凶悪犯罪以外の小さな違法行為を繰り返し、さらにはそれを「信教の自由」や教義を口実として正当化している。教義が反社会的な行動に結びついている教団だからこそ、「ポア思想もどき」の出現には注意が必要だ。
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幸福の科学の違法・問題行為
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