幸福の科学、コロナ禍に発行された霊言本で、「ポア思想もどき」が出現

繰り返される暴力

 ケガを負わせるほどではないが暴力も用いる。筆者自身、3度ほど経験している。公道や公営野球場での取材の際に、職員らから体を押さえつけられるなどして取材妨害を受けたケースや、路上で信者に引っ叩かれたり組み敷かれて取材メモを強奪されたり。  昨年は、香港民主活動家のアグネス・チョウ氏の霊言として、チョウ氏が香港への自衛隊派兵を望んでいるかのような内容を公表した幸福の科学に対して、教団施設前で筆者や賛同者が抗議活動を行った。この場でも、垂れ幕越しに教団職員が抗議活動参加者を小突く場面もあった。  よく、カルト宗教取材は危険ではないのかといった質問をされることがあるが、こうして身体が触れる形での直接的暴力は、幸福の科学関連以外で私は経験したことがない。

法律より偉い大川総裁

 前出のオウム真理教の犯罪行為を支えた主要な要素を思い出して欲しい。①支配者志向、②指導者の絶対視、③終末論、④教団の利害、⑤遵法意識の欠如、そしてポア思想が、⑥実際の人権侵害・違法行為につながった。  大川総裁の著書などからその言動を追うと、幸福の科学はこれらの要素を全て備えていることがわかる。今回登場した「ポア思想もどき」が積極的な殺人奨励には至っていない点と、実際の人権侵害や違法行為がテロや殺人よりは軽微なものである点は、オウムと違うが。  幸福の科学が自らの問題を正当化する上で最大の根拠となるのが、「大川総裁はとにかく偉い。法律より偉い」という設定である。  1991年7月。東京ドームで開催された生誕祭の講演で、大川総裁は自らを「エル・カンターレ」という名の神であると宣言した。いわゆる「エル・カンターレ宣言」だ。その中に、こんな一節がある。 〈われは、この地球の最高の権限を握りたるものである。われは、この地球の初めより終わりまで、すべての権限を有するものである。なぜならば、われは、人間ではなく、法そのものであるからだ。〉  もはや「支配者になりたい」という願望を通り越している。「自分はすでに支配者である」と言い張っているのだから。  ここで言う法とは宗教的な教え(幸福の科学の教義)のことで、教団では「仏法」とも呼ぶ。大川総裁はエル・カンターレであると同時に、仏陀の生まれ変わりでもあるという設定だからだ。これに対して世俗の法律について「王法」という言葉を使って、大川総裁は法話でこんなことも語っている。 〈私は、決して、「世間の常識や法律などを無視してよい」と言っているわけではありませんが、「王法を超えたものがある。王法に優越する仏法というものがある」ということです。〉(法話『選ばれし人となるためには』=2010年)  そして、法律より優越する大川総裁の教えを信仰するということは、どういうことなのかについては、こうだ。 〈かつての大戦や革命に参画した者たちは、不惜身命の心がなければ、戦えなかったはずですね。だから、自分たちの自覚として肝に銘じているかどうかを問うているのであって、「その人たちを表彰し、その人たちに位階や冠を与えるために、過去世を明かしているのではない」ということです。つまり、「あなたがたも、命を捨てよ」と言っているわけです〉(霊言『天照大神のお怒りについて』=2012年) 〈信仰っていうのはね、会員登録をしただけで「立った」とは言えないんですよ。 (略) 「エル・カンターレは本当に地球神なのか。(略)これを信じきれるか」というところまで問われると思うんですよ〉(霊言『釈尊の未来予言』=2020年)  幸福の科学に入会しただけでは不十分。法律より偉い大川総裁(エル・カンターレ)を、命を捨ててとことん信じ切らなければ、信仰しているとは言えないというのだ。  信者にそんな無茶を要求する教団にいると、どうなるのか。その一例が、これだ。  今年4月17日。大川は黒川弘務検事長の霊言の映像を全国の教団施設で公開した。ところが4日後の21日、『週刊文春』が賭け麻雀問題をスクープ。あっと言う間に辞任に追い込まれたが、黒川霊言はこの事態を全く想定していない内容だった。大川総裁はネット上で笑いものになり、教団は職員による言い訳の動画をユーチューブに投稿。賭け麻雀を「文化」などとした。そしてコメント欄には、こんな投稿をする信者が現れた。 〈当会が肯定するなら私も賭けマージャンは有りだと思います 黒川さんは辞めなくて良かったのに・・・〉 〈法律よりも総裁先生のおっしゃることのほうが私にとっては正義ですし 何よりも大切な守るべきものです〉 〈人間には分かり得ない主の深いお考えがあるのだと 全てを信じます〉  大川総裁の教えは法律よりも正義。理解できなくても全て信じる。だから賭け麻雀は問題なし。  そんな幸福の科学や大川総裁を批判する者は、地獄行きだ。 〈仏法流布を妨ぐる悪魔はこれを許すまじ  仏・法・僧への中傷は極悪非道の所業なり  もはや人間として生まれるはこれが最後と悟るべし  この世のいかなる大罪も三宝誹謗に如くはなし  和合僧破壊の罪は阿鼻叫喚堕地獄への道避け難し〉(経文『仏説・降魔経』)  和合僧破壊の罪とは、修行者(信者や職員)を惑わせ混乱させる罪のこと。教団の敵であり地獄行きになる存在は、「無神論者」だけではなく「幸福の科学を批判する者」全てなのだ。  近日公開の後編では、幸福の科学の教えの根底にあった「ゴールデン・エイジ」の破綻と、その結果浮上してきた「終末論」について語る。 <取材・文/藤倉善郎>
ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)
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