まず、このワーキンググループの構成員はどのようになっているのか。
韓国側からは
青瓦台(大統領府)、外交部、統一部、国防部、国家情報院の南北関係に関わる主要組織がすべて網羅されており、アメリカ側からは
ホワイトハウス、国務部、NSC(アメリカ国家保障会議)が参加している。
この米韓ワーキンググループ設置以降、南北間の議案はすべて事前に
本ワーキンググループの承認(=アメリカの承認)が必要となっており、
ワーキンググループ設置以前に南北間で合意をしていた、5つの事案(金剛山観光と開城工団再開、道路及び鉄道の連結、防疫・保健・医療協力、離散家族の再会、漢河河口の共同利用等)についてもすべて白紙化された。
ワーキンググループ発足前の2018年10月に、米・
トランプ大統領は「韓国はアメリカの承認無しには何も出来ない」と発言しており、その直後、
文在寅大統領は「(南北関係は)国際的な制裁に反しない範囲で始める」と南北関係改善のトーンを一気に落とした。
以降の文在寅大統領の「金剛山・開城工団再開には米国との協議が必要」、「南北の意思だけでは進められない。国際社会の同意を得なければいけない」等の南北関係に関連する発言を見ても、米韓ワーキンググループの決定による制約を強く受けていることが窺える。
本来であれば、韓国・文在寅大統領から「民族の意思を優先して」と伝える事によって始まった南北の関係改善が、
アメリカの介入により完全に転向してしまった。米韓同盟に韓国の主権が完全に絡めとられてしまったのだ。
北朝鮮の立場から言えば、2年間も我慢してきたが、韓国がまったく動かないどころか後退している状況。
南北共同事務所の爆破は、単に脱北者によるビラが原因ではない。南北間のすべての合意に対して、「実行の伴わない南北融和は必要ない」という北朝鮮の韓国に対する強烈なメッセージとなっている。
またコロナ禍による混乱の極みのなか、勝算が日々薄まる大統領選に向け足掻き続けるトランプ政権への強烈なくさびにもなっている。
北朝鮮が壊したのは南北共同事務所であるが、壊したいのは米韓(日)の同盟である。
一連の北朝鮮報道に接する際は、この点に軸足をおいて見るべきだ。そうすればワイドショー化したニュース報道では語られない東アジア情勢の姿が浮かび上がってくるはずだ。
<文/HBO編集部>