考え方が古い上司に毎日イライラ――【石原壮一郎の名言に訊け】~吉田松陰の巻~

Q:頭の中が化石みたいな50代の上司に、毎日イライラさせられています。忙しそうだからと気をつかって簡単な報告をメールで送ったら、「なんで直接報告しないんだ。そんなに俺と話したくないのか!」と怒り出すし、ふた言目には「もっと足を使え。営業は相手と顔を合わせてナンボだ!」と古臭い考え方を押し付けてきます。そんなの非効率なだけで意味ないのに。上司というだけで、あんなダメなオヤジの言うことを聞かなきゃいけないのが、すごくストレスです。(東京都・28歳・営業) A:今でもいそうですね、そういう上司。とってもイライラしている様子が、ありありと伝わってきます。元校長先生で、ずっと前に退職してからは町内の知恵袋として頼りにされている“先生”こと村山さんに、怒れる若者をなだめてもらいましょう。 吉田松陰「ふむふむ、28歳か。仕事にも多少は自信がついて、オヤジ世代のことをいちばんうっとうしく感じる頃じゃなあ。元気があって、けっこうけっこう。そりゃあ、20代と50代とでは、考え方も仕事のやり方も違うじゃろう。しかし、ダメ呼ばわりは感心せんなあ。  近ごろまたよく名前を目にするようになった吉田松陰が、こんなことを言ったそうじゃ。元は古臭い言い方じゃが、現代語に訳してご紹介しよう。 【自分の価値観をもって人を責めることなかれ】  自分と価値観や考え方が違うからといって、相手に対していちいち攻撃的な気持ちになっていたらキリがない。ダメだと決めつけるのも、あまりに一面的な判断じゃ。世の中にはいろんな人間がいる。「なんでそんなふうに考えるんだ」「なんでこういう行動を取るんだ」と思っても、それをこっちで変えることはできん。  誰しも自分が正しいと思っているが、それは無数にある「正解」のひとつでしかない。他人に押し付けようとするのは無茶な話じゃ。他人は変えられないのに、どうにか変えたいと思うことが、人間関係のストレスを生む原因になっているように見えるのう。  もちろん、上司のやり方がどうしても納得できなくて、このままでは仕事に支障が出るということなら、きちんと言ってみればいい。松陰はこうも言っておる。 【諫言もできない者は、戦のときに真っ先に敵陣に攻め込むこともできない】  怖い上司だろうと何だろうと、直接「それはおかしいと思う」と言えずに、不満を溜めることしかできないようでは、ダメ呼ばわりしている上司と五十歩百歩じゃな。あるいは、上司にケチをつけたいだけで、たいした問題じゃないということかもしれん。イライラしてないで、せっかくなら価値観の違う相手から学べるところを探してみたらどうじゃ。そうすれば自分がデカい人間になった気にもなれて、一石二鳥だと思うぞ。」

【今回の大人メソッド】価値観の違いは、責めるより尊重したほうが何かとお得

 価値観が違う相手を心の中で責めるのは、ついやりたくなりますけど、ストレスがたまるだけで何の実りもありません。「そういう人もいる」と相手を尊重した上で、考え方の好き嫌いはさておき、学べるところを探してみましょう。反面教師にしてもかまいません。「広い心で嫌なヤツからも学ぶ俺って偉いなあ」と、こっそり悦に入るのも一興です。 【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。 いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)