バター不足の元凶。農水省バターマフィアのセコ過ぎる利権構造とは?

 前2回(『バター不足の怪。牛乳やチーズは山ほど売ってるのに、なぜ?』『バター不足は農水省による「チーズの作らせ過ぎ」が原因』)では、バター不足が生じる下地ともいえる農水省の補助金制度について説明したが、今回は国産バターの不足を補うことができない、特殊なバターの輸入制度について、農業ジャーナリストの浅川芳裕氏が解説する。
バター

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「常日頃から国産、外国産を問わず、仕入れルートや商品ラインナップを多様化して消費者ニーズに応えることで、小売り・食品業界は成り立っています。それが先進国における豊かな消費生活の前提です」  そう語る浅川氏は、それを阻害しているのが農水省の天下り団体「農畜産業振興機構」によるバター輸入業務の独占だとする。  輸入バターには特殊な関税割当制度が適用されていて、一定の輸入量までは一次税率(関税35%)が課せられ、その枠を超えると二次税率(関税29.8%+1kgあたり179円)が課せられる。ただし、一次税率の対象は600トンと極めて限られた数量で、これは機構が国際航空会社や国際物産展にあらかじめ割り当てるので、普通に輸入しようと思えば、より高率な二次税率を払わなければならない。  さらに、輸入業者はわざわざ機構にバターを買い入れてもらい、農水大臣が定めた1kgあたり最大806円の輸入差益(マークアップ)なるものを上乗せされた価格で買い戻さないといけないという、不可思議な制度になっているのだ。  例えば、国際価格500円のバターを1kg輸入したとする。まず関税29.8%プラス179円が課せられる。そこに輸入差益806円を上乗せすると1634円と輸入価格の3倍以上となり、流通業者や小売業者の儲けを乗せれば優に2000円を超える価格になってしまう。これほど高価格では、いくら農水省が緊急輸入しましたと言ったところで、せいぜいどうしても必要な業務用に回るくらいで、とても一般消費者にはとても手が出ない。  その上、機構は「輸入するバターの数量、時期について、国内の需給・価格動向などを勘案して決定」できる権限を握っているので、仮に民間業者が多少高くてもいいから輸入しようとしても、自由に輸入できないのだ。輸入できるのは機構が実施する入札時だけで、しかも一定の条件をクリアした指定輸入業者しか入札に参加できないことになっている。  これらの措置は国内酪農家の保護のためといわれるが、実際には何が起きているか。 「例えば、多様なバターが自由に生産・調達できないため、諸外国と比較して日本ではマーガリンのシェアが異常に高くなっている。つまり、その原料となる米国トウモロコシ農家を安定して潤わせる政策であり、国内の酪農保護とはむしろ正反対の結果を生んでいるという側面があるのです」(浅川氏)  また、実のところ「農畜産業振興機構」の仕事といえば、書類を右から左に流すだけ。それだけで巨額の収益を得ていることになる。農水省によれば24年度のバター輸入量は4千トンで、農畜産業振興機構に入った輸入差益は約23億円あったといい、緊急輸入が行われた昨年は1万3000トンだから、その約3倍の“儲け” があったと考えられる。輸入差益は酪農家への助成に使われるとされるものの、農畜産業振興機構の15人の役員の大半は農水省OB及び出向者で、理事長の報酬は1672万3千円、一般職員の平均年収も665万円と、国家公務員平均を上回る高給を得ている(平成25年度)。農水省にとっては、実においしい利権となっているわけだ。 「この団体設立の大義名分は酪農家保護ですが、実際には消費者、バター関連業者、さらには酪農家にも厄災をもたらす厄介者です。百歩譲って本当に農水省がバターの国家貿易が必要だと信じているなら、農水省本体がやればいいこと。なぜ民間開放の流れにかこつけて独立行政法人に仕事を回すのか。いずれその天下り団体で自分たちが高給を得るためなのです」(浅川氏)  農水省は酪農業の保護を謳って行う偏った補助金制度や輸入制限によってバター不足を生じさせている割には、現実には生乳生産量や酪農家の戸数は年々減少している。にもかかわらず、それを理由にバターが足りませんというのはあまりに矛盾してはいないか。その一方で、自分たちの生活の安泰だけは頑なに守ろうとする。そのツケが消費者に回ってくるのではたまったものではない。 「解決策は実にシンプルです。輸入利権を廃止し、バター輸入を自由化するだけなんですから」(浅川氏) <取材・文/杉山大樹>