「妊娠したかも」「家にいたくない」…。コロナ自粛で逃げ場を失う子どもたち

森山誉恵さん

森山誉恵さん

 虐待、貧困、望まない妊娠――子どもたちを取り巻く悲嘆なニュースを目にすることも多い昨今、コロナによる緊急事態宣言後、自粛がもたらす虐待や女子中高生の妊娠の増加を耳にするようになりました。学校やアルバイトに行けず、家で過ごしていた子どもたちはどのような状況にあったのでしょうか。      今回は、悩みごとを抱える子どもたちと支援機関をつなぐ10代向け支援サービス検索・相談サイト「Mex」の運営や学習支援サポートなどを実施する認定NPO法人3key代表の森山誉恵さんにお話を聞きました。

自粛で逃げ場のない子どもたち

――Mex利用者のうち、コロナによる自粛によって虐待を受けている子たちは増えているのでしょうか。 森山:緊急事態宣言中は、相談内容の傾向からは、新規の虐待が増えたというよりコロナで逃げ場がなくなって家にいる時間が増えて追い詰められたようなものが多かったです。自粛の要請によって、今まで虐待を受けてきた子たちに逃げ場がなくなり、ストレスを抱えている印象です。家にいられる状況ではないのになぜ家にいなければならないのか、という気持ちのようですね。  夏休みなど長期休みの期間は自宅の滞在時間が増えるため、虐待相談は増加傾向にありましたが、休みの場合には、アルバイトや友達の家に遊びに行ったりと逃げ場があったんですね。でも、コロナによる自粛期間中は逃げ場がありません――コロナによる両親の失業や収入の低下で子どもたちが貧困状態に陥っているといった現状はあるのでしょうか。 森山:子どもの相談内容を見る限りでは、それほど顕在化しているという印象はありません。ただ、親の相談に応じている団体さんなどの話を聞くと、親側の将来への不安が非常に強いと聞きます。東日本大震災の時には、震災の翌年に新しい虐待が増えたので、親の貧困が長期化してくると新規の虐待相談も増えるのではないかと感じていますね。コロナによる親の失業や収入の低下が長期化すれば、そのしわ寄せが子どもたちに来るということは十分予想できます。    また、自粛期間中、子どもたちは学校には行っていません。その間両親は仕事に行っているケースも多いのですが、そうすると子どもが長期間放置されていることになるんです。  親がいなくてラッキーと思っているケースもあるので、子どもが相談していないだけの可能性もあります。栄養ある食事はしていないかもしれませんし、可視化されないだけで、育児放棄と言える状態は増えているかもしれませんね――虐待の改善策はどのようなものなのでしょうか。 森山:虐待に関しては二つしかありません。親や家庭環境の改善か、別の場所に逃がすかです。その機能を担うのが児童相談所ですが、後者の「逃がす」にあたる子どもを施設や里親などで一定期間以上保護するケースは全体の4%程度です。96%のケースは家庭に戻るので、家庭環境を改善するしかないのですが、日本の児童福祉では虐待の一時対応がやっとで、家庭環境の改善までのサポートは十分ではありません。  家庭環境の改善がされるまでは、家以外の居場所を増やしてあげることしかできません。家にいたくない子たちの過ごせる安全な場所をいかに増やし、作るか。家庭が絶対的な存在であればあるほど、虐待による子どもへのダメージは大きいものになります。  また、子どもが悪くて虐待されているわけではないので、間違っても自分を責めないように声を掛けることもとても大切です。民間のNPOは未成年である子どもたちを保護する権限はないので、児童相談所など、虐待保護等の権限がある機関に適切につなぎ連携すること、子どもの居場所を増やすこと、子どもたちが自分を責めないための働きかけをしていくことなどが、私たちの役割だと考えています。

性に関する知識のない女子中高生

――コロナによる自粛期間中に女子中高生たちが妊娠したというニュースを耳にしますが、相談内容にそのような変化は現れていますか。 森山:コロナに限らず、長期休みの傾向として虐待の他に妊娠や性の相談は増えます。学校に行っている時には、いじめや学校に行きたくないという相談が増えるのとは対照的ですね。  今回のコロナ禍では、自粛期間中であるにもかかわらず長期休みと似た傾向にありました。妊娠については増えたというよりは減らなかったという感触です。 ――自宅にいなさいと言われたにもかかわらず、外出していたということですよね。 森山:電車に乗って遠出するような、明らかに咎められることはしていないと思いますが、家にいたくない子ほど、恋人と会ったり、家で遊んだりしていたのではないでしょうか。 ――妊娠に関する相談内容はどのようなものなのでしょうか。 森山:私たちが把握している範囲では「生理が来ないからどうしよう」というものがほとんどです。大人が思うような性的に奔放な子たちからの相談が大半というわけではなく、例えば、「昨日、コンドームをきちんと付けて性交渉をしたけれども、オーラルセックスの時に手についた精液をそのままにして寝てしまった、これで妊娠するのか」といったような内容が圧倒的に多いです。 ――避妊の知識がないということでしょうか。 森山:そうですね。性交渉の翌日など、妊娠判定ができる時期まで待てずに不安で相談している印象が強いです。親にも友達にも先生にも誰にも言えない、不安で不安で仕方がない、という感じです。学校などで日常的に性について教育を受けられれば、相談そのものも、不安で押しつぶされそうなケースもかなり減るのではと感じることが多いです。  もちろん、相談者の中には性虐待や性暴力で妊娠をしている等、単なる不安を超える深刻なものもあります。でも、多くの子たちが避妊についての知識もなければ性交渉そのものに慣れていないがゆえに不安になっていますね。その背景には、大人に相談できない、特に性のことは誰にも相談できないというように、頼れる人が身近にいないということもあります。
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