――臨床心理士の信田さよ子先生によるオンライン相談会が実施されていますが(第1回は終了、第2回は26日21時~)、どのような経緯で実施されることになったのでしょうか。
森山:虐待を受けている子どもたちの多くは、虐待に自覚がなく、自分を責め続けている子が多いです。そのままでは、自分が悪いからと思い、だれかに相談したり、助けを求めることすらしようとしません。SOSを出す一歩目は子どもたちが自分を責めず、状況を正しく理解・解釈することだと思っています。
逃げ場所があったとしても、「自分は悪くない」と思うスタートラインに立たせてあげないと逃げることもできません。
逃げ場所をみつける後押しが必要なんですね。
タイトルにはあえて虐待という言葉は使わず「私は親にとって要らない子だと思ってしまう」「親との接し方がわからない」にしています。大概の子どもたちは虐待を自覚していません。なので、テーマは相談の間口が広くなるようにしています。
――子どもたちは学校の先生には相談しないのでしょうか。
森田:統計でも結果が出ていますが、友達親子という言葉があるように、そもそも今の子どもたちの相談相手は友達でも先生でもなく親が1位になっています。そういうこともあって、子どもが最初に頼っているのは親なのですが、逆に言えば
親にすら頼れない子は誰にも頼れません。
学校は一部の子どもたちにとっては、いじめられたり、比べられたりする場所で、安全な場所とは捉えられていません。学校側も家の問題には踏み込まないという姿勢を取っているのでなおさらです。「スクールソーシャルワーカー」という先生とは別の相談相手もいます。ただ、保健室などにいる場合は相談しやすいのかもしれませんが、別室にわざわざ相談しにいかなければならないとなると「訳ありの子」というレッテルを貼られるので、ハードルを感じる子もいるようです。
――虐待を受けている子どもたちを支援する立場から見て児童相談所等の行政機関等に望むことがあればお聞かせください。
森田:警察や児童相談所など子どもたちから相談を受ける機関に対しては、
子どもは簡単に自分が虐待されたとは言えないことを理解して欲しいです。彼らが発するSOSは
「家にいたくない」というような曖昧なものなんですね。
にもかかわらず、警察や支援機関や大人から「親になったらわかるよ」「親も心配しているよ」という言葉を言われて傷ついた、それ以上何も言えなくなったという子どもたちからの声があります。その言葉を言われると、「自分がされていることは特殊なんだ」「他の人にはわかってもらえないんだ」「自分が我慢しなくてはいけないんだ」などと思って帰ります。二度と相談はしないかもしれません。
また、親側に社会的地位があると「そんなはずはない」と虐待の有無を判断する目が曇ってしまい、見逃してしまうこともあります。
普通の感覚で考えたら、児童相談所や警察に子どもが行くというのはよっぽどのことです。
もう少し子どもの側に立って、虐待の端緒をつかむところまでは話を聞いて欲しいです。
――私たち大人ができることはどのようなことなのでしょうか。
森山:子どもからすると、自分の受けている行為が虐待とわかっていても、誰かに相談することは、親の逮捕や施設への入所等を招くことにもつながるので、難しい面もあります。兄弟のことを思って、虐待のことを一人で抱えているケースも少なくありません。
なので、その子にとっての
家以外の居場所や相談相手を増やす手伝いをすることが一つだと思います。自分の家以外のことに踏み込むのは勇気もいりますし、余裕や知識がないと、大人の常識を振りかざして子どもをかえって傷つけかねません。でも、何もしないと子どもは一人で抱えこまざるを得なくなります。大人ができることは、そういう
子どもたちに大人の常識を振りかざさずに、適切に関わる方法を勉強すること、そして子どもの味方になり続けることです。
ただ、自分自身も虐待を受けて来たり、我慢してきた方にとっては、相手に優しくすることは難しいかもしれません。その場合は、支援をしているNPOや支援機関を寄付などで支えるのもとても力になります。虐待などは、専門的なスキルや勉強の継続が大切であり、ボランティアの範囲では難しい領域です。たくさんの方のサポートを受けてはじめてできる支援なんですね。
――今後の3keysの事業展開についてお聞かせください。
森山:Mexを運営し、様々な支援機関と連携する中で支援機関の量にも質にも課題があることが分かってきました。例えば、子どもたちの通信手段はメールかLINEのみであるのに、支援機関はそれらのツールに対応できていないこともあります。また、相談の受付時間帯も部活の終了後や自室に入った後の20~21時台の相談が一番多いのですが、17~18時台で相談が終わったり、その時間になると相談者が極端に減るケースもあります。
これから先は、専門家のアドバイスも得ながらMexの運営で見えてきた子どもたちのニーズを支援機関側に伝え、子どもたちを支援機関につなぐだけでなく、啓発活動も含めて支援機関の質の底上げのサポートに力を入れていこうと考えています。
子どもたちに出会うまでは、今の自分があるのは自分の努力によるものだと思っていました。しかし、子どもたちと出会って、私よりもたくさんもがいて、我慢してきた子たちを見て、たくさんの人に支えられて来た自分の方が頑張ったとはまったく思えませんでした。
自分はたまたま運が良かった。そして、彼ら彼女らと接する中で、結局、その人の人生がどうなるのかは、残念ながらどこに生まれて育ったかが大きいということを痛感しました。
その時、運が良かった自分にできることは、運の良さに傲慢にならずに、自分が受けてきたものでチャレンジし、子どもたちをサポートする側に回ることだと感じたんですね。それが私の原点であり、これからもそうした活動を続けて行きたいと思っています。
<取材・文/熊野雅恵>
くまのまさえ ライター、クリエイターズサポート行政書士法務事務所・代表行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、自主映画の宣伝や書籍の企画にも関わる。