安倍政権下での答弁拒否の総数を調べるために、国会会議録検索システムで期日を第2次安倍内閣が誕生した2012年12月26日から執筆現在の2020年6月17日(近日中の議事録はまだ反映されていない可能性がある)に指定し、検索の抜け穴を生じさせないために検索キーワードを『控え』に設定し検索した。すると、13,901件も該当した。
13,901件の中には、2016年5月8日の決算委員会で元気がトレンドマークのアントニオ猪木議員が、委員長から名指しで「大声は控えてください」と怒られ、「国会にいると元気がなくなってしまうな」といじけてしまうやり取りなど、答弁拒否と関係のない「控え」も含まれていた。
そこで13,901件を1件ずつチェックすると、質問への回答や説明から逃れるために「答弁を控える」、「お答えは差し控えさせていただく」、「回答は控えさせていただきたい」、「差し控えたい」、「控えます」など多種多様な言い回しで、政府側の答弁者が追求から逃れていた。
第2次安倍内閣が誕生してからの国会の会期1,694日間において、上記のような説明を拒むために使われる言い回しを首相・大臣・副大臣・大臣政務官、政府参考人(官僚)が使った合計は、6,532件だった。
年別にみると、2012年は0件(会期3日)、2013年は448件(会期211日)、2014年は829件(会期207日)、2015年は670件(会期245日)、2016年は712件(会期236日)、2017年は1046件(会期190日)、2018年は1312件(会期230日)、2019年は957件(会期222日)、2020年は558件(会期150日)と、年を重ねるごとに答弁拒否の回数が増加し、2018年には5年前の約3倍にまで増えた。
2017年と2018年に答弁拒否数が増加したのは、森友・加計学園問題、南スーダン・イラクPKO日報隠蔽問題という政権が吹っ飛んでもおかしくない不祥事が続き、答弁を控え時間を稼ぐことしか乗り切る方法が存在しなかったからだ。
2012年の民主党野田政権における答弁拒否389件(会期248日)と比較しても、安倍政権が真摯に国会での論戦に向き合っていないことがわかる。人によってはこの状況を長期政権のおごり緩みと評するかもしれないが、これは明らかに日本政治の劣化であり議会制民主主義の危機だと筆者は感じる。
人物別でみると安倍首相が614件(任期2,734日)で最も多く、岸田文雄元外務・防衛大臣の276件(任期1,682日)、河野太郎防衛・元外務大臣の239件(任期1,356日)、稲田朋美元防衛大臣の147件(任期612日)、麻生太郎財務大臣の145件(任期2,734日)と続く。
安倍首相の任期が長いため答弁拒否回数が増えるのも仕方ないと感じるかもしれないが、任期が全く同じ麻生財務大臣と比較すれば、安倍首相が繰り返し答弁から逃げてきたのがわかる。
答弁拒否回数で安倍首相がトップである理由は、政府の最高責任者であり全ての事柄で説明が求められる点や、安倍首相が当事者である森友・加計問題や桜を見る会といった疑惑の追求を受けたからだ。また防衛・外務大臣のランクインについては、国家機密や安全保障、他国との関係という理由で答弁拒否する機会が多いからだ。