米国のBlack Lives Matterを受けて考える日本の問題

法的抑止力が皆無な日本

 日本では外見が異なる人に対する偏見もあります。アフリカ系アメリカ人との「ハーフ」の宮本エリアナさんは、ミス・ユニバース日本代表に選出された際、ネットで「日本人らしくない」という言葉が寄せられました。このような排他的な反応は、インド人の父親を持つ吉川プリアンカさんがその翌年に同じタイトルを獲得した際にもありました。  日本政府の政策の下でも被害が発生しています。日本政府が拡大している「技能実習制度」では多くの外国人が技能習得の名目を示されて日本に来たものの、違法な低賃金や醜い偏見の被害にあっています。  また、日本は「単一民族国家」という神話を権力を持つ人びとが発信していることが、日本での排他的な感情を助長していると考えられます。なぜなら、そうした神話は在日コリアンや先住民のアイヌの人々の歴史や経験を縮小化してしまい、マイノリティの声に耳を傾けなくなってしまうからです。(参照:the japan times)  日本にいるマイノリティの人びとは弱い立場に立たされています。なぜなら、日本には人種、民族、宗教、性的指向や性自認(ジェンダーアイデンティティ)による差別を禁止する法律がないため、何が差別かという一般認識も低く有効な救済制度もほとんどなく、被害者は泣き寝入りを余儀なくされる場合が多いのです。また、日本政府は国連からの度重なる勧告にもかかわらず、いまだに国内人権機関を設立していません

間接的にでも考えるきっかけに

 以上を踏まえると、米国に限らず日本にも解消する必要がある差別や偏見が多々あることがわかります。だからこそ、日本にいる人々はブラック・ライブズ・マターの運動をアメリカ特有のものと見ず、日本にも人種や民族を理由に差別や偏見の被害にあいやすい人々がいることを考える良い機会として捉えるべきです。  アフリカ系アメリカ人公民権運動の指導者であったキング牧師は、「バーミンガム刑務所からの手紙」でこう書いています。  「いかなる不正も、あらゆる公正に対する脅威となる。我々は、避けることのできない相互関係のネットワークのなかに生きており、運命というひとつの織物に織り込まれている。誰かに直接的に影響することは、皆に間接的に影響する」と。 <取材・文/笠井哲平>
かさいてっぺい●’91年生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業。カリフォルニア大学バークレー校への留学を経て、’13年Googleに入社。’14年ロイター通信東京支局にて記者に転身し、「子どもの貧困」や「性暴力問題」をはじめとする社会問題を幅広く取材。’18年より国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチのプログラムオフィサーとして、日本の人権問題の調査や政府への政策提言をおこなっている
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