「ボルソナロ大統領の失策によって〜」という報道のウソ
ブラジルはCOVID-19以前から、現職のボルソナロ大統領(2019年1月〜)に対するプロテスト派と支持派とに分かれ、これまでにない大きな歪みと苦悩にあふれている状況だ。
ボルソナロ大統領による人種差別、女性蔑視的発言はこれまでもたびたびあり、世界的に話題となってきた。またブラジルの銃規制を緩め、アメリカから銃器を積極的に輸入するという流れもこれまであった。
COVID-19では感染予防対策をするどころか、多くの犠牲者を記録してもなお続く数々の強硬的失言には疑問を持つ支持者もいる。まるでブラジルの持たざる大衆をさらに苦しめ、階級支配体制を強化するようにも見えなくない。
次に、ボルソナロ大統領のCOVID-19についての発言をまとめてみた。
▼世界的流行のはじめ:「COVID-19はマスコミによるデッチ上げだ」
▼COVID-19犠牲者1人:「ただの風邪にすぎない!」
▼犠牲者10人:「アスリートのように健康管理すれば良いだろう!」
▼犠牲者100人:「一部の高齢者が死ぬだろう!」
▼犠牲者1000人:「私は墓堀り人ではない!」
▼犠牲者1万人:「だから何?」
▼犠牲者2万人:「州知事たちと市長たちが悪い!」
▼犠牲者3万5000人:「死者数を隠そう!」
こうした無責任なボルソナロ大統領によって、ブラジルはCOVID-19対策をしない方針で、野放し状態となって来たのだろうか? 答えは
「NO」だ。
日本のメディアでは報道されていないが、大国ブラジルの各州知事の権限・独立性は大きい。
日本政府よりも早い時期にボルソナロ大統領とは正反対のCOVID-19対策を早急に行なっていた州知事や市長も数多くいる。ボルソナロ大統領のコロナ対策の無さはブラジル国民の批判の的だ。
しかし、「ブラジルは大統領が“コロナはただの風邪”と言って対策をしない方針の国」と単純に考えるのも大きな間違いなのだ。
現在もCOVID-19対策をめぐり、ブラジル政府議会と大統領派、各州/各市の方針は異なり、そのやり合いは続いている。すでに保健省大臣が4月以降だけで2名が更迭された。死者数を非公開にしたボルソナロ大統領に対し、ブラジル最高裁判所がすぐに対抗。行政に情報開示の指示を出し、政府保健省による発表は再開された。
その一方で「反ボルソナロ大統領派」の中にも、ブラジルのCOVID-19感染者数、また死亡者数の発表に対して、懐疑的な人たちがいるのが現状だ。さまざまな見解がブラジル国内でもある。
○「感染者数は実際よりもっと多いはず」
○「死者数は、COVID-19による死者ではない数も入れられている」
○「もともと基礎疾患に問題があった人たち、他の健康的問題があった人たちがCOVID-19で亡くなった場合が少なくない」
こういった見解がブラジル人たちの生の声だ。
ブラジルに限ったことではないが、マスコミによって日々数値が発表される一方で、“COVID-19を取り巻く実態は未だ不明瞭な点が多い”のも現実ではないだろうか。
このような理解や考察なしに、大国の出す目立つ総量数だけをもとに「ブラジルでは〜」と(特に日本では)乱暴に印象づけられているのではないだろうか。
<文・写真/KTa☆brasil(ケイタブラジル)>
東京生まれの日本人。世界各大陸で活動する音楽家、ライター、番組レポーター。神奈川県の在日米軍施設の近くで育つ。同時にサッカー/野球/F1GPとの関わりから「汎ラテン圏の民衆力」に着眼。米国を経て1997年よりブラジル各地での活動を継続中。共著書『リオデジャネイロという生き方』(双葉社)ほか、寄稿多数。MTVやFM各局、NHKテレビ「スペイン語講座」などのレギュラー出演を経て、戦後日本体制の常識に疑問を持つ。世界各地の民族史と音楽史、移民史、混血文化史を、現地との関わりを持って研究し続けている。『Newsweek』誌「世界が尊敬する日本人100」に選出。Twitter:
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