受験生目線での指摘として、次のようなものがあるとよいと思いました。一般に、大学受験生は、入試が行われる日に目標を定め、そこから逆算して学習計画をたてます。例えば、1週間後に大学入試がある場合と半年後に大学入試がある場合では、現在の学習到達点が同じであっても受験生がとる行動は異なるのです。
また、受験生は、問題集を購入するときに、掲載されている問題数を気にすることがあります。それは、「今から始めて、間に合うだろうか」と考えるからです。もちろん、「いつ大学入試があっても大丈夫」という極少数の受験生もいますが、大半は目標に向けてピークをあわせようとします。オリンピックの選手が、試合の日程に合わせて体を作るのと似ているのです。
したがって、いつ共通テストが実施され、国立大学の2次試験がいつどのように行なわれるかは受験生にとって重要な問題です。6月11日に共通テストは従来通り来年の1月16日、17日で実施される見込みであることが報道されましたので、今後はここにあわせて学習計画をたてることになります。もちろん、この日程になったことに不満の人もいることでしょう。しかし、今年の場合は入試日程に関してはすべての人に満足のいくような選択はないのだと思います。ですので、今後は受験生の目指すゴールを大人が浅い考えから口をはさみ、いつまでもこれを動かそうとすべきではないかと思われます。ゴールがまた動かされると、受験生は勉強に専念できないか、集中力が落ちていくことが十分に考えられます。
別の話になりますが、大人の都合でという話に関連して、この会議でも以前から指摘されている「9月入試」についても同じことがいえます。「9月入試」については、来年度だけの特例的な「9月入試」ならまだ議論の余地はあったかもしれませんが、恒久的な「9月入試」は、社会に与える影響も大きく、仕組みを大きく変えなければなりません。したがって、「今年のような状態だから移行しよう」ではなく、「今年のような状態だからこそやめよう」となるべきなのです。
そもそも十分な情報を高校3年生を始めとする受験生に提示していない
共通テストは、最後の試行調査のあとで、記述式の中止決定があり形式が変化しました。数学の場合は、「数学I」「数学I・数学A」の試験には当初15点分の記述式の問題(3題)が出題される予定でしたが、それがなくなり、その15点分を何に代用するのかについては未だ無回答です。つまり、受験生は、「受けてみないとわからない」という不安をもとに共通テストを受検することになります。もちろん、この状況は、受験生全員に対し「平等」であると考えることもできますが、情報が少ないときには、よくできた「デマ」が流れるものです。
さらに、6月17日の報道によれば、共通テストの追試日を従来の1週間後から2週間後にし(過去にもありました)、従来のような「やむを得ない状況でないと受験できない」ではなく、そうでなくても受験できるようになります。そして、2月にも病気で受けられなかった人のために追試の追試が設定されています。
これまでと異なり、自由に追試を選択できるようになると(これに関しては引き続き検討中とのこと)、十分に情報を与えておかなければ、選択の余地のない一部の受験生を除き「本試と追試のどちらを受けるべきか」と悩むことになります。特に、今のままでは出題形式がわからないままですので、まず本試の問題を見てから追試を受検することも戦略としては可能です。特に、「受験産業」では、本試を見て、追試までの2週間に、急速に共通テストの対策を考えることでしょう。やはり、数学と国語の記述式がなくなったあとの情報を大学入試センターは公開すべきなのです。
また、これまで年度によって平均点が大きく動く科目もありました。今度は同じ年度の中で起こり得るので得点調整が必要になる場面も考えられます。新型コロナの第2波、第3波が日本全国に来た場合あるいは一部の地域にだけ来た場合の現時点での対応策も発表しておけるのなら発表しておいた方がよいでしょう。私たちは、これ以上、今の高校3年生に負担をかけてはいけません。
<取材・文/清史弘>
せいふみひろ●Twitter ID:
@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。