自分は小池票を削れる存在。選挙に興味がない層にリーチできると自負している
5月27日に、都知事選への出馬を表明した宇都宮健児弁護士
さらに小池都政の評価について聞いてみたところ、こんな答えが山本氏から返ってきた。
「最初(4年前の都知事選)の公約『7つのゼロ』もやれていない。(今回の出馬会見で小池氏が掲げた)『東京大改革2.0』とは何なのか。『やる』と言って『やらない』という(東京)大改革。(築地移転についても小池知事は)日本の文化を破壊してしまったと思います」
その後、山本氏の出馬は「(立民・共産・社民などが支援する)宇都宮健児弁護士と票を食い合うのではないか」「小池知事や安倍政権を利するのではないか」といった質問が相次いだ。これに対して山本氏は
「自分は小池票を削れる存在」であると同時に
「選挙に興味がない層にリーチできると自負している」と反論した。
とはいえ、貧困問題に長年取り組む宇都宮氏と山本氏とは、支持者も立場も重なり合う。米国の予備選のような手法で一本化をすれば、票の食い合いは避けることができた。しかし今回は両者とも告示まで1か月を切った段階での出馬表明で、一本化をする時間的余裕がなかった。
世論調査2位候補への戦略的投票によって想定外の逆転勝利の例も
「コロナで困っている人たちを今すぐ救わなければ」と、街頭演説で訴える山本太郎代表
ただし有権者が一種の自主的予備選を投票前に行うこともできるし、実際に投票行動に現れたとみられる知事選もある。告示日直前に出馬した山口義祥知事が、圧倒的優位と見られた自公推薦の樋渡啓介・元武雄市長に奇跡の逆転勝利をした2015年1月11日投開票の佐賀県知事選のような例もある。
この選挙では、官邸お墨付きの政権追随型の樋渡氏と、オスプレイ受け入れと玄海原発再稼働に反対の島谷幸宏・九州大学教授と、中間派の山口氏の三つ巴の戦い。投開票日直前に自民党幹部(選対委員長)は勝利宣言をしていたが、まさかの敗北を喫した。
島谷氏の支援をしていた嘉田由紀子・前滋賀県知事(現・参院議員)は
「最終盤で島谷票の一部が山口氏に流れて逆転したとみています。実際に『本当は島谷さんに入れたかったけれども、政権追随の樋渡知事誕生を避けるために山口さんに入れた』という電話が何本もかかってきました」と振り返る。
投票直前に有権者が世論調査2位の山口氏に絞り込み、島谷票の一部が山口氏に上乗せされて、想定外の逆転勝利を導くことになったというわけだ。
今回の都知事選でも、山本氏と宇都宮氏の支持者が
「小池都政ストップ」の旗印のもとに世論調査2位候補に票を集中させれば、佐賀県知事選と同様、圧倒的優位と見られた小池氏に対抗できる可能性もある。
石井妙子著
『女帝 小池百合子』(文藝春秋)が15万部突破で小池圧勝ムードに翳りがみえる中、山本氏による小池票切り崩しと無関心層の掘り起こし、100万票近い得票実績のある宇都宮氏の支持拡大、そして最終段階での両候補票の戦略的投票ということが重なればどうなるだろうか。波乱含みとなって盛り上がってきた都知事選から目が離せない。
<文・写真/横田一>