支持率の低下に焦り、後先を考えないトランプ大統領の言動は、軍部から大きな反発を招いている。星槎大学大学院教授の佐々木伸氏は話す。
「支持基盤のキリスト教福音派へアピールするためか、トランプ大統領は、デモ隊を催涙ガスで排除し、6月1日にはホワイトハウス近くのセント・ジョンズ教会へ行き、聖書を片手に記念撮影しました。同行した米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は、政治には中立であるはずの軍が誤ったイメージを持たれかねないので『その場にいるべきではなかった』と謝罪。国民から人気の高いマティス前国防長官も『米国を分断しようとしている』と痛烈な批判を雑誌に寄稿し、大きな反響を呼んでいます」
肝心のキリスト教福音派へのアピールも失敗に終わったようだ。
「教会と聖書が利用されたと反発する声のほうが大きい。福音派からもそっぽを向かれ始め、トランプ大統領とは旧知の間柄で、著名なテレビ伝道師のパット・ロバートソン師も対立を煽らないよう諫めている。そもそもなぜこんな稚拙な演出をしたかというと、デモ隊がホワイトハウスに押し寄せたとき、大統領が地下壕に避難したので一部から『意気地なし』と呼ばれ、それに反発したためではないか」(佐々木氏)
身内の共和党内からも堂々と“反乱者”が出ている。穏健派の重鎮・パウエル元国務長官は「憲法から逸脱した」とトランプ大統領を厳しく非難し「バイデン氏に投票する」とまで明言。このほか上院議員のロムニー氏やマカウスキ氏もトランプ大統領との対立姿勢を強めている。
支持基盤から次々と見放され、トランプ大統領の再選は潰えたかに思われるが、「選挙はやってみないとわからない」と佐々木氏はいう。
「これまで数多くの問題が浮上してもトランプ大統領の支持率が40%を割り込まなかったのは、ダウ平均が史上最高値を更新し続けたように、経済が好調だったから。トランプ大統領にとって株価と支持率は同じ。11月の大統領選までにパンデミックを収束させ、大型減税やインフラ投資で経済をさらに回復させれば再選の可能性も十分にある」
ただ経済が持ち直しても、人口の13%を占める黒人の心は離れたまま。現在、トランプ大統領は投票率の上昇を恐れているという。
「黒人の投票率が5ポイント上がれば、選挙結果は変わる。’08年と’12年の大統領選では黒人の投票率は65%を超え、民主党のオバマ氏が当選した。しかし’16年は60%を下回り、共和党のトランプ氏が大統領に。今回の大統領選では、人種差別が大きな争点になっているため黒人の投票率は上がるでしょう」
そんな中、新たな事件が12日夜、アトランタで起こった。警察の取り締まりから逃走した黒人男性が背中を撃たれ死亡。抗議デモに参加していた一部の暴徒は事件現場のレストランを放火した。
繰り返される警察の失態と収まらない抗議デモ。トランプ大統領の対応は変わるのか。20日からオクラホマ州タルサで再開される選挙集会に注目が集まる。
大統領選直前の10月には、スキャンダルの暴露や大事件が頻発する。前回の大統領選(’16年)の10月にはFBIのコミー長官(当時)がヒラリー・クリントンの電子メール疑惑の再調査を始めると公表。当選確実と言われていたヒラリー陣営は大打撃を受け、トランプが逆転で大統領に。大統領選は最後までわからない。
<取材・文/週刊SPA!編集部>