市中の次亜塩素酸系製品はなぜ批判される? 化学者が腰を抜かし、経産省も手のひらを返した現状とは

企業倫理、工業倫理の視点から抜本的見直しを

 筆者は、化学物質としての次亜塩素酸はたいへんに優れたものと考えており、安価で生産性も良いことからその実用化への試みには好意的です。しかし、であるからこそ慎重に手順に従った堅実な道のりを進むべきであると考えています。  今回、経産省が緊急に一般アルコールを解放するという判断をしない代わりなのか、次亜塩素酸水を中心に様々な代用消毒製品の評価をしましたが、中間報告ではありますが全くパッとしない結果で事業失敗と評するほかありません。  2020/05/01のNITE発表*では、やる気満々で、次亜塩素酸業界の夜明けが近くに感じられたのですが、2020/05/29の発表**では、「次亜塩素酸水」や次亜塩素酸については一挙に後退し、当て馬と言うべき界面活性剤類の評価に移行しています。 〈*新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について、第2回検討委員会を開催しました。 2020/05/01 製品評価技術基盤機構〉 〈**新型コロナウイルスに有効な界面活性剤を公表します(第2弾)~物品への消毒方法の選択肢がさらに広がります~ 2020/05/29 製品評価技術基盤機構〉  次亜塩素酸(水)業界にとっては、青天の霹靂で、いきなり脳天に隕石どころか遊星爆弾の直撃を受けたようなもので、2020/06/11には、大学の研究者同席で反論の記者会見*が報じられました。 〈*次亜塩素酸水“コロナ予防に役立つ”と反論2020/06/11日テレNEWS24〉  事業者の失望と怒りは理解できますが、今回の件は典型的な技術系起業家の失敗で、製品の長所ばかりに目が行き致命的な短所への対策を疎かにしてきたが故に盛大にコケたと言えます。  現実問題として、現在市中に氾濫するイカガワ*次亜塩素酸製品の実態をみれば、いかな中抜き省庁である経産省でも腰が引けてへたり込むこと間違いなしです。 〈*筆者は、怪しげな、いかがわしい製品をイカガワ製品と呼称している。筆者は、「すいかソーダ」などのイカガワドリンクには、ついつい手が伸びてしまう好事家である。〉 「『次亜塩素酸水』等の販売実態について(ファクトシート)2020/05/29」のような文書が発表されるのはかなり異常な事態であり、余りにも酷い次亜塩素酸製品の氾濫にNITEおよび経産省の担当者は悲鳴を上げ、再委託先の研究者も腰が引けてしまったと考えるほかありません。  企業倫理、工業倫理の視点から抜本的見直しを行った上で、一からやり直さねば再起はあり得ませんし、そのうち深刻な製品事故を起こして再起不能になりかねません。既にインシデントは数多く報告され、公表されているのです。  次亜塩素酸は、物質としては見所がありますので、初心に返り、企業倫理、工業倫理を堅実に守った上での再起を祈念します。 ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ13 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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