コロナ禍で収益性激減のカジノ誘致。それでも「見直しはしない」と吉村洋文大阪府知事が断言

コロナ禍でカジノの収益性は激減した

鳥畑与一・静岡大教授

海外カジノ業者に詳しい鳥畑与一・静岡大教授

 吉村知事は見直しを否定したが、米国カジノ大手のMGMもサンズと同様に厳しい経済情勢にさらされているのは確実だ。それでも大阪に投資する余力はあるのか。カジノ業界に詳しい鳥畑与一・静岡大教授に聞くと、「カジノのビジネスモデルは終焉した。MGMも投資余力はないでしょう」という答えが返って来た。 「新型コロナウイルス感染拡大で世界中のカジノが閉鎖されていますが、米国でも営業停止となっています。約8兆円の巨大市場が消え、どの業者もゼロ収益に陥った。感染が収束して再開できてもV字回復は困難です。  ソーシャル・ディスタンス(社会的距離)を保つことが再開の条件になるためで、例えばスロットマシンの客同士の距離をあける必要があることから、客数を半分以下に絞らざるを得ない。収益性が激減するのは間違いない。  カジノの高収益性を“エンジン”として、カジノ以外のIR施設(国際会議場や展示場やエンターテイメント施設など)の赤字を補填して運営するというビジネスモデルは、成り立たなくなったと見ています」(鳥畑氏)  ちなみに米国カジノ最大手の「ラスベガス・サンズ」は当初、大阪進出を表明して「40億ドルから100億ドル(約1.1兆円)」の投資も示唆。吉村知事が大阪市長だった2017年9月1日にはアデルソン会長が大阪府庁を訪れ、松井一郎知事(当時)に面談もしていた。  しかし2019年8月に横浜市が誘致表明をした途端、大阪進出を撤回して横浜に乗り換えた。「より高い収益性が望めることが理由でしたが、横浜だけでなく、東京とも比較することも表明しました。それほど収益性に敏感なサンズが日本撤退を表明したのは、新たな巨額投資に見合う利益をあげることが困難と判断したためでしょう」(鳥畑氏)  しかも新型コロナウイルスの感染拡大でテレワークへの移行が一気に進んだように、カジノでも現実世界の「ランド(地上型)カジノ」から仮想的な「オンライン(コンピューター)カジノ」への転換が進んでいるという。

誘致自治体は、市場の変化・企業の経営状況を見極めよ

横浜港の予定地

米国カジノ最大手「ラスベガス・サンズ」は横浜の誘致表明直後に大阪から横浜に乗り換えたが、今年5月に日本進出断念を表明した。写真は、横浜港の予定地を視察する野党国会議員

 鳥畑氏は「地上に巨大な施設を作り、カジノの高収益性で巨額の初期投資を回収していくIRのビジネスモデルは終焉を迎えている」と強調する。  4月8日の会見で吉村知事は「MGMと大阪府とのやり取りもままならないような状況」「話を進めるのが今、いったん延期にもなりました」として、IR担当職員をコロナ担当に異動させる方針を述べていたはずだが……。  この時点では鳥畑氏も「カジノ誘致計画を中断し、予算や人的資源をコロナ感染対策に回すべき」と、吉村知事の考えに賛同していた。しかし今回、見直しを否定したことについてはこう苦言を呈した。 「大阪などカジノ誘致自治体は、感染拡大でカジノ市場がどう変わったのか、カジノ企業がどういう経営状況なのかを見極める作業をやる必要があります」(鳥畑氏)  安倍政権に物申す姿勢などが評価され、2位の小池百合子・東京知事に3倍以上の差をつけてダントツで「最も評価する政治家」となった吉村知事――。そんなコロナ時代のニューリーダーがなぜ、コロナ前のIRビジネスモデルに未だに固執しているのか。新しさと古さの二面性を持つ吉村知事から当分、目が離せない。 <取材・文・写真/横田一>
ジャーナリスト。8月7日に新刊『仮面 虚飾の女帝・小池百合子』(扶桑社)を刊行。他に、小泉純一郎元首相の「原発ゼロ」に関する発言をまとめた『黙って寝てはいられない』(小泉純一郎/談、吉原毅/編)の編集協力、『検証・小池都政』(緑風出版)など著書多数
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