データが突きつける「日本はアジア東部・大洋州地域ではコロナ三大失敗国のワースト2」という現実

世界を襲ったコロナ禍

Omni Matryx via Pixabay

新型コロナウイルスを巡る日本の現況

 SARS-CoV-2パンデミックにおいて世界的には比較的早かったといえる2020年01月14日に国内初感染者を検出した本邦*は、その後表面上はゆっくりと事態推移したものの東京オリンピック延期発表**とほぼ同時の3月下旬になると国内感染者数の急増、多くの著名人の感染と死亡が相次ぎました***。 〈*新型コロナウイルスに関連した肺炎の患者の発生について(1例目)2020/01/16厚生労働省(厚労省)〉 〈**東京五輪・パラ、「1年程度」の延期決定 「東京2020」の名称は維持2020/03/24 BBC/筆者注:TOKYO 2020(東京オリンピック)については、BBCが極めて正確かつ迅速な報道を続けており、国内報道各社の追随を全く許さない。圧倒的といえる〉 〈***志村けんさんが新型コロナ感染 重症の肺炎で入院 濃厚接触者は自宅待機2020/03/25毎日新聞/筆者注:志村けん氏は、その後3/29日に死亡し、世界のファンを悲しませた〉  その後、本邦においてもパンデミックの拡大が制御不能の様相を示し、厚生労働省のクラスター対策班に参加する北海道大学の西浦博博士(理論疫学)が、2020/04/15には、最悪想定として42万人の死亡を予測して発表し*、世間に衝撃を与えました。この西浦氏の予測は、合衆国における新型コロナ対策タスクフォースが3月に発表した最悪想定の100〜220万人と比較すると比較的楽観的でしたが、合衆国と本邦の人口比10:4で補正した40〜88万人の範囲内で妥当なものと言えました。当時筆者は、合衆国における死亡予測と、感染症対策が極めて消極的且つ遅延を見せていた本邦の状況から100万人(第二次世界大戦における日本戦没者数の1/3)の死亡予測をし、肉身の犠牲を覚悟し、恐怖に震え閉じこもっていました。 〈*行動制限なしなら42万人死亡 クラスター班の教授試算 [新型コロナウイルス]2020/04/15朝日新聞〉  しかしながら、欧米に比して著しく不徹底な社会活動抑制政策*にもかかわらず、本邦における死者数は欧米に比して著しく抑制され、5月連休の社会活動抑制**、多くは市民の自主的行動制限によって感染症の制圧にある程度成功し、5月半ばから6月にかけて社会活動の制限が解除されつつあります***。 〈*安倍首相が緊急事態宣言 7都府県で5月6日まで 新型ウイルス対策2020/04/07 BBC〉 〈**安倍首相、緊急事態宣言を全国に拡大 連休前に「移動を最小化」2020/04/16 BBC〉 〈***安倍首相、緊急事態宣言の全国的な解除を表明2020/05/25 BBC〉  日本における新型コロナウィルスの感染実態の把握状況が世界的には大幅に少ないPCR検査の抑制政策で大きく劣っていること、政府の対応が大きく遅れたこと*などから合衆国や欧州よりも悲惨なことになる可能性が案じられましたが、実際には四月末頃から状況の大きな改善がみられ、現在に至っています。 〈*BBCやCNNなど外電では、3月中には連日、オリンピック開催を諦めない日本政府による意図的行動であると指摘されてきたが、オリンピック開催延期とほぼ同時に欧米でのパンデミック激化によって日本のこと自体が外電による報道から姿を消していってしまった〉  身内に死人が出るのではないかと深く憂慮していた筆者も、四月末頃に感染拡大を制圧できつつあるのではないかと考え、5月半ばには一部を除き状況制圧の段階に入ったと判断するに至りました。  BBCなど外電も、「何故か理由は分からないが、日本はとりあえず欧米に比して遙かに軽い傷で収束した」と言う見解で、これには筆者も同意です。但しその中で駐日特派員は、「世界で抜きん出たマスク着用文化」「握手やハグをせず挨拶をする文化」「家では靴を脱ぐ土禁文化」であることを取りあげ、加えて日本市民の努力を賞賛しました。これにも筆者は同意でとくに「世界で抜きん出たマスク着用文化」であることは、CDCに次いでWHOのガイドライン「マスクは無意味、市民はマスクするな」を撤回させるほどに大きな影響があったのではないかと考えています。  面白いことに3月上旬までは「マスク着用は無意味」、「マスクを買い集めるな」と繰り返し断言していたBBCやCNNでは、4月中頃から「この人は何故マスクをしていないのでしょう?」「あなたはどうしてマスクをしないのですか?」「みなさん、外出ではマスクを着用しましょう!」と新興マスク警察として日夜マスクチェックに精を出しています。  今日、合衆国では警官によるジョージ・フロイド氏虐殺事件を切掛けに全土で大規模な抗議運動が行われていますが、多くの参加者がマスクを着用し、報道陣もマスクを着用しています。でも、マスクの使い方がドヘタクソでハラハラさせられます。
ジョー・バイデンさんのマスク姿

次期合衆国大統領を目指す民主党Joe Biden氏のTwitter公式アカウントのアイコン用画像
合衆国におけるマスク文化の萌芽を示す写真である。バイデン氏がマスクを着用しているのは誰もが知る事実だが、日本人によるマスクチェックには、まだまだ合格しそうにない

   本邦のマスク文化は市民を大きく助けたと考えられますが、勿論これは科学的にも医学的にも合意を得たものでなく、あくまで仮説です。また、マスクだけでここまで被害抑制されたとも考え難く、今後の科学的検証が強く待たれます。

数字でみる世界のコロナ禍

 本邦におけるコロナ禍が想像より遙かに軽微だったことから、既にまたまた「コロナ恐れるに足らず」「日本SUGEEEEEEEE」(日本スゴイ)というまるで83年前の「国府中国恐れるに足らず」「皇軍不敗」のようなプロパガンダが流れ始めていますが、定量的どころか定性的評価もあまり見かけません。一方CNNでは、毎週どころか常に数値で論じられてきており、”BLACK LIVES MATTER( 黒人の命にも価値がある)”人種差別抗議運動の報道によって頻度こそ大幅に減りましたが、重要な数値は必ず毎週の特集と話題の都度に報じられています。パンデミックとの闘いに欠かせないのは数字です。何故か本邦ではろくに出てこない数字がなければ、竹槍で核兵器と闘うようなものです。  そこでここでは数値に基づいて現状評価をします。
各国で確認されたCOVID-19による人口百万人当たりの死亡者数

各国で確認されたCOVID-19による人口百万人当たりの死亡者数
上から英国、イタリア、スウェーデン、フランス、合衆国、カナダ、スイス、ブラジル、ペルードイツ、イラン、チリ、世界平均、ロシア、グアム、アルジェリアの順でさらに続く。日本では独自の成功例の一つと紹介されることのあるスウェーデンは、完全に失敗した国と考えられている
出典Our World in DATA(数字はリンク先で全て入手できる)

 図は、各国で確認されたCOVID-19による人口百万人あたりの死亡数(死亡数/百万人)を示します。COVID-19による死亡数の統計の取り方は、各国により違いがあり、数値の直接比較には注意を要しますが、傾向とオーダー(桁)での比較は可能です。  アジア諸国とくに東アジア、東南アジア、大洋州(オセアニア)諸国は、100万人あたりの死亡率が10以下とたいへんに小さく、図ではフィリピン以下に固まっており見えません。このことからCOVID-19禍による人口当たり死亡率は、大きな地域性を持つことが分かります。これを地図で示してみましょう。
COVID-19による人口百万人当たりの死亡者数分布

COVID-19による人口百万人当たりの死亡者数分布
出典Our World in DATA

 非常に明快な分布をしていますが、COVID-19による人口当たり死亡率が高いのは欧州、南北アメリカ、中東、ロシアです。アフリカも感染者数、死者数が急速に増加中であって高死亡率群に入る可能性が高いです。  一方で、東アジア、東南アジア、大洋州諸国では、明らかに人口あたりの死亡率が低く、欧米比1/100程度の低い死亡率になっていることが分かります。「日本SUGEEEEE」でなく、東アジア、東南アジア、大洋州諸国では「謎々効果(感染率や死亡率などが低い理由が科学的に立証されていないのだがなぜか低いことを筆者はこう呼称している)」でコロナ禍が大幅に抑えられているのです。死亡率で評価すると東アジア、東南アジア、大洋州諸国は、欧米比1/100であり、もはや感染症としては別物にすら見えます。筆者は、ずっと1/10くらいであろうと考えてきましたが、1/100なのです。これは驚くべき結果です。
COVID-19による人口百万人当たりの死亡者数

COVID-19による人口百万人当たりの死亡者数
出典Our World in DATA(数字はリンク先で全て入手できる)

 何故東アジア、東南アジア、大洋州諸国ではコロナ禍が大きく抑制されているのか、とくにヴェトナムでは死者数がゼロであるのか、この理由は今のところ全く分かっていませんマスク文化仮説、挨拶文化の違い仮説、BCG仮説など様々な仮説、珍説が乱立していますが、筆者は、SARS-CoV-2にアジア型と欧米型の違いがあるという仮説についてTake-note(注意を向ける)しています。  いずれにせよ現時点で人類には、なぜ東アジア、東南アジア、大洋州諸国が欧米比で遙かに軽い被害で済んだのか、理由が分かっていません。東アジア、東南アジア、大洋州諸国の特異的な挙動は、4月末頃には現象の存在への合意が形成され、今日では全世界が注目しており、既に科学的究明が始まっています。筆者は、ワクワクしています。
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