『Inkscape』という名前は、英語の『ink(インク)』と『-scape(風景)』を組み合わせて作られた。スケッチを描くような制作作業をいつでもおこなえ、ベクターイメージのオブジェクト指向な世界を示している。そうした理由で命名された(参照:
Inkscape Wiki)。
こうした意味を持つ『Inkscape』が世の中に登場したのは、今から
17年前の2003年になる。しかし、その前身となるとさらに古くなる。
このグラフィックソフトのプロジェクトは、元々
Raph Levien によって作成された、『
Gill』(GNOME Illustration Application)として1999年にスタートした。この『Gill』は、Lauris Kaplinski が率いる『
Sodipodi』というソフトとして発展する。さらにこの『Sodipodi』から、2003年にフォーク(分岐)して開発がスタートしたのが『
Inkscape』となる(参照:
Inkscape Wiki)。
『Inkscape』への分岐は、『Sodipodi』の開発者の4人が分離することでおこなわれた。最も大きな目的は「
SVGへの完全準拠」だった。標準的なファイル形式に完全に準拠すれば、利用者にとって大きな恩恵がある。他のソフトでも自由にファイルを扱えるし、プログラマーが自分でファイルを改変することも簡単にできる。
『Inkscape』は、多くの開発者が平等かつ活発に参加するオープンなコミュニティで開発がおこなわれた。そのため、多くの開発者が参加して発展することになった。こうした開発者が参加した理由の一つとして、「SVGへの完全準拠」という理想があった。
少し、ソフトウェアと思想や理想について触れておきたい。
ソフトウェアには思想や理想がある。何のために開発されたのか、世界をどう変えたいのか。そうした人の思いがあって、初めてソフトウェアは開発される。特に、オープンソースの巨大なプロジェクトには、その思想や理想が大切だ。人々は思想や理想に共感して協力しようと考えるからだ。
『Inkscape』への分岐では、理想である「SVGへの完全準拠」以外にも、多くの変更がおこなわれることが宣言されている(
Sodipodi)。
また、『Inkscape』では、クロスプロットフォームを実現する GUIツールキットとして、GTKベースのものが採用されている。クロスプロットフォームというのは、Linux、Windows、MacOS のように、異なる環境をまたいで利用できることを指す。
クロスプロットフォームを実現する方法はいくつかあり、Java などのクロスプラットフォームを実現するプログラミング言語を利用する方法、GTK や Qt といった、GUIツールキットを利用する方法、Electron や NW.js のような、Webブラウザの技術を利用する方法などがある。
『Inkscape』は、2003年のバージョン
0.35 から、徐々にバージョンを増やしていき、
0.92 が2017年1月に出て、なかなか次の大きなバージョンアップを達成できていなかった(
Inkscape Wiki)。そして3年強の月日を経た2020年5月に、ようやく胸を張って完成と言える
1.0 に到達した。
『Inkscape』の開発開始からは17年、
『Gill』の開発から数えると21年かかって、ようやくバージョン 1.0 にたどり着いた。
『Inkscape』はオープンソースなので、そのソースコードに直接アクセスすることもできる。公開は
GitLab でおこなわれており、
開発者向けのページも用意されている。今回の 1.0 を期に、コードを見てみたい人は、触れてみるとよいだろう。
最後に、『Inkscape』を使えば、簡単にお絵かきができるという例で、最近流行っているアマビエを描いたので掲載しておく。色を変えるのも簡単にできるので、カラーバリエーションの『あま火え』『あま冷え』も作成しておいた。
アマビエ
あま火え
あま冷え
この画像を利用した、Webブラウザで無料で遊べるタワーディフェンスゲーム『
アマビエディフェンス』もゴールデンウィークのあいだに作ったので、遊んでみてはいかがだろうか。
アマビエディフェンスタイトル画面
アマビエディフェンスプレイ画面
<文/柳井政和>