危機に瀕する香港の「自由」。抗議活動に対する弾圧も激化

Hong_Kong_Protests

写真/ AP/ アフロ

危機に瀕する香港の「一国二制度」

「中国は(香港の)一国二制度を、“一国一制度”に変えた」  5月29日、トランプ大統領はこのように中国を批判。「米国からの中国企業の締め出し」や「香港への特別措置の撤廃」にも言及した。事実上の対中制裁強化だ。  その発端となったのは、22日から始まった中国の最高機関・全国人民代表大会。突如、「香港版国家安全法」の草案を発表し、1週間足らずで同法の制定方針を圧倒的多数で採択したのだ。中国ウォッチャーとして知られるジャーナリストの福島香織氏が解説する。 「香港の憲法に当たる香港基本法23条には、国家分裂、動乱扇動、中央政府転覆、外国政治組織の香港での活動を禁止する法律を自ら制定すべしとする『国家安全条例』についての条項が規定されています。これに基づき、香港政府は’03年に同条例の制定を目指したのですが、返還以降で最大規模の50万人デモが発生して見送りを余儀なくされました。今回の全人代での国安法制定に向けた動きは香港政府と立法会、香港市民をも無視し、頭越しに中央政府が直接この条例を制定してしまおうというもの。トランプ大統領の言うように、香港の高度な自治を維持するための一国二制度を“一制度”とするやり方です。国安法では、国家安全機関を香港に設置することを盛り込んでいるほか、中国人民解放軍の全人代代表が『いかなる国家統一の破壊、分裂行為も粉砕できる自信がある』と発言しているだけに、今後、解放軍が香港の抗議活動の鎮圧に乗り出す可能性もあります」  補足すると、国安法は基本法に定められた国安条例の代替案とも異なる。香港中文大学で移民問題などを研究する大学院生の石井大智氏が話す。 「基本法23条の国安条例の制定規定では『中央人民政府を転覆させる行為』を禁止するための条例制定を要求しているのに対し、今回の国安法の草案では『国家政権を転覆させる行為』という表現になっています。この“国家”には香港政府も含まれるとなれば、香港政府への抗議活動も取り締まりの対象となります。また、基本法にはない、『組織的テロリズムの取り締まり』という表現が国安法には盛り込まれており、中央政府は抗議者たちを『テロリスト』と見ていることがより明確になりました」

「来年も生きていられるかわからない」

 それだけに香港市民の恐怖は計り知れない。香港の民主化を求める政党「デモシスト」の中心メンバーで“民主活動の女神”と呼ばれる周庭氏は「来年も生きていられるかわからない」とまで漏らすのだ。 「国安法には『外国勢力の介入』を阻止することが盛り込まれていますが、これは私たちデモシストの活動を念頭に置いていると感じています。海外との連携を最も重視してきた政党だからです。仮に国安法が施行されたら、私たちは逮捕され、活動停止に追い込まれる危険性がある。それどころか、香港警察でなく、中国の公安に逮捕され、中国によって裁かれる可能性もある。中国の国家安全機関を香港に設置することや『外国人裁判官を治安に関する審理から排除する』ことが盛り込まれているためです。香港の裁判は英国司法制度を踏襲して英語で行われるため外国人の裁判官が多いのですが、国家安全に関する裁判では彼らを排除するというのです。これは司法への政治介入にほかなりません」
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活発化する抗議活動、そして弾圧
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