2014年にその後の日産スペインの運命を左右する出来事。それは、飛躍を期待して導入した車種パルサーがまったく期待外れの結果に終わったということである。
当初年間8万台の生産を見込んでいた。ところが、初年度は3万5000台の生産に留まり、2018年には僅か2万台まで後退した。この躓きがその後の飛躍の可能性を閉じてしまったのである。この時点から日産スペインは飛躍を目指すというよりも、従業員の雇用を維持するための守りの経営に向かったのだ。
スペイン工場でのパルサーの生産中止のあと、MV200バネット(ガソリンとディーゼル用)も姿を消した。その後釜に電気自動車MV200に加えて日産ナバラ、ルノーアラスカン、メルセーデス・ベンツXクラスという3社のピックアップ車の生産が選ばれた。
いずれにせよ、スペイン工場がヨーロッパで販売する柱になる車種の中心工場になる機会は消滅した。例えば、英国の日産サンダーランドは車種キャシュカイが生産の柱になっている。日産スペインは常に車種を他の工場から分けてもらうといった存在になってしまったのである。スペイン工場でパルサーがヒットしていればスペイン工場の運命は今とは違ったものになっていたはずである。
だから、日産本社もスペイン工場への投資の関心は薄く、不況もあってどの市場も自工場で生産している車種を他の工場に移すことを嫌った。ということで、スペインの工場は生産する車種は減っても新しく生産する車種がないという状態が長く続くのである。それが意味するものは将来的には工場は閉鎖の方向に向かっているということであった。
当初、英国がEUからの離脱した場合はキャシュカイの生産をスペイン工場に移すという噂もあった。英国が単一市場を利用できなくなるからである。しかし、この可能性は消滅した。EUと日本が貿易自由協定を結んだことによってEUで生産する代わりに日本で生産してそれをEU市場に輸入関税なしで輸出するということが可能になったからである。
更に、スペイン工場の存続を難しくさせたのは、メルセデス・ベンツXクラスの生産が5月で終了となったことである。それまでピックアップ3車種の生産が3万8000台であったのがXクラスが抜けることによって20万台生産可能な工場で生産稼働率は30%以下になるのということなったのである。これでは工場を維持することも容易ではなくなる。