予備費10兆円のさらなる問題は、コロナ禍で苦しむ人々への支援と抱き合わせになっていることです。家賃補助や雇用支援、ひとり親世帯への支給、医療従事者等への慰労金などと同じ補正予算として編成されています。
これらの支援策の多くは、
当事者や市民、専門家が強く求め、その声を受けた野党が政府与党と粘り強く交渉して盛り込まれたものです。
新型コロナウイルス対策政府・与野党連絡協議会が、その主たる交渉の場となりました。こうした働きかけや交渉がなければ、政府与党は現場のニーズを十分につかめず、
第一次補正予算の予算案組み替えと同様に大混乱となっていたことでしょう。
野党の交渉力の背景には、第一次補正予算案への賛成があります。補正の成立に野党も責任を負うことで、政府与党に対する交渉力を高めていたため、第二次補正予算案に様々な提案を盛り込むことができたわけです。
もし、
野党が予備費10兆円を理由に第二次補正に反対姿勢を取れば、必要とされるだろう第三次補正予算案への交渉力は弱まります。現場の声を政府に伝える役割について、与党が十分に果たせず、野党が果たしているきた経緯を見れば、それはコロナ禍で苦しんでいる人々の救済を犠牲にすることを意味します。
つまり、
安倍内閣は「民主主義」と「生活保障」の二者択一を野党と有権者に迫っているのです。
野党が「民主主義」を理由に第二次補正に反対すれば、困っている人々の「生活保障」が犠牲になります。他方、
野党が「生活保障」を理由に賛成すれば、民主主義と憲法を骨抜きすることに加担してします。どちらにしても、野党の力を削ぐことになるでしょう。野党にとっては、
極めて難しい判断となります。
この
政略を考えたのは、歴史に対してなんら見識を持たず、人々を冷酷に切り捨てることを何とも思わない人物でしょう。それが安倍首相なのか、別の政治家なのか、あるいは取り巻きなのか、分かりません。しかし、ろくでもない人格であることだけは疑いありません。
これに対して、人々ができることは大きく二つあります。
一つは、
あらゆるやり方で声をあげることです。検察庁法改正案では三権分立を壊すという懸念の声が
#検察庁法改正案に抗議します で示され、政治を動かすに至りました。この問題についても
#予備費10兆円も三権分立を壊します というハッシュタグで、多くの人々が声をあげています。
もう一つは、
投票に行くことです。次の衆議院選挙はもちろんのこと、地方での選挙も含め、あらゆる選挙で投票し、自らの意思を示すことが大切です。与党が勝つか、野党が勝つかは、あくまで結果でしかありません。それ以上に重要なことは、
多くの人々が自ら考えて投票するという意思を政治や行政に示すことです。
人々が声をあげ、行動すれば、政治は変わる。それが世界の歴史です。今こそ、立ち上がるときなのです。
<文/田中信一郎>