男性は、働くこと以外の選択肢を取れない現実に苦しむ
男性も葛藤する。
大石さん(仮名、30代男性、子どもなし)夫婦は子どもを欲しているが、「仕事や家計のことを考えると踏ん切りがつかない」と悩む。大石さんは夫婦ともにフルタイムで、お互いの実家までは距離があるので、何かあってもすぐに頼れない。
「私の仕事は忙しいので、この状態で子育てにどれだけ時間を割けるのかがわかりません。家事も育児も妻に任せっきりにするのは嫌ですが、職場の雰囲気を考えると家庭を理由に仕事は休みにくい。家庭を優先することで昇進が遅れたり、仕事を続けにくくなったりする可能性を考えると、子どもを持つ決断ができません」
男性の育児休業取得率は過去最高の6.16%ではあるものの、依然として女性(82.2%)とは大きな差が開いている。これには「男性は仕事をすべき」という性別による役割の決めつけが影響している。前述のように男性の方が賃金が高いため、必然的に男性が家計の担い手になる。
また多くの場合、男性の人生で仕事から長期間離れることは想定されない。男性学で有名な田中俊之さんは著書『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波ジュニア新書)で、「男性は働くしかない現実に直面し続けている」と述べ、男性が仕事以外の選択肢を持ちにくい現状を示している。
加えて、「育児は母親がすべき」「子どもにとって母親が一番」という考えも男性が家庭を優先しにくい要因となっていると感じる。筆者は育児を理由に仕事の優先順位を下げようとした時、仕事関係者から「奥さんは何をしているのですか?」と質問されたことがある。これは暗に「男性であり、仕事をしていればいいはずのあなたがなぜ家庭のことを考えるのか?」という気持ちが発言者にあるから出た質問だと筆者は考えている。
育児をシェアできたら、子育てのプレッシャーは和らぐのではないか
このほかには、
「一人の人の人生に責任を持てないですし、最低でも18年間育てるのは無理だと思います」(前述の斎藤さん)
「健康で生まれる保証はないし、成長の途中で大病をするかもしれない。ずっと愛情を注ぎ続けられる自信もありません」(武田さん、仮名、20代女性、独身)
など子育てへのプレッシャーに不安を抱く声も挙がった。
加えて、子育てを頼りにくい環境も育児を苦しくする。保育士歴25年で二人の子どもを育てる武藤さん(仮名、40代女性)は、「核家族が多く、ご近所の繋がりも希薄になっていて、お父さん・お母さんたちが追い詰められやすい状況にあると感じます」と話す。
「親だから子どものために頑張るのは当たり前」や「子どもにとって親が一番いいに決まっている」などと言われて萎縮してしまい、助けを求められないという話を聞いたことがある。子どもを持つ選択をしたのは自分の選択でも、その後疲れずにずっと育児に向き合えるわけではない。もし弱音を吐くことも許されないなら、子どもを持とうとする人はいなくなってしまう。
子どもに関わる人の数を増やすのは、育児のプレッシャーを和らげるのに有効ではないだろうか。たとえば「ご近所SNSマチマチ」というサービス上では、近隣住民同士で助け合う動きが見られた。具体的には、「少しだけお子さんを預かりますよ」といった内容だ。
カーシェア、ルームシェアなど近年では「シェア」の考えが盛んになっているが、子育てこそ「シェア」が生きてくるはずだ。夫婦だけで育児をするのが辛くても、誰かの手を借りることで楽になる。
育児を夫婦だけ、家族だけでなくいろんな人を巻き込んでするのが当たり前になったら、「子どもを持つ選択もいいな」と思える人が増えるのではないだろうか。
<取材・文/薗部雄一>
1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。