「ジェンダー」の意味するところ、「トランス」の捉え方の差異、そして「性同一性障害」から「性別違和」への言葉の移行をこのように辿ってゆくと、冒頭で述べた表現は具体性を持ったものとして現れてくる。トランスジェンダーという言葉が意味するところは、個々の置かれた社会、文化、経済的条件などにより異なるものの、出生時に与えられる性別、あるいは社会や近親者から要求、期待されるジェンダーの問題に対して違和を感じ、それぞれの仕方(「超越」や「移行」)を通してその違和を紐解いてゆく営みだということである。その意味の浸透の結果の一つが「性同一性障害」から「性別違和」への移行であり、2018年にはWHOが改訂した「国際疾病分類」(ICD-11)において「性同一性障害」は「精神疾患」から外されることとなった(「ジェンダー不調和gender incongruence」という言葉に置き換えられた(※7) が、定訳はまだ存在しない)。
「性別違和」がより臨床的なものであったように、トランスジェンダーが意味することは今後も、当事者が置かれている社会的問題、ジェンダー問題の変化と共に「語りなおすこと」を繰り返し試みられる必要がある。その意味で本論は、筆者がこれまで置かれてきた状況や見聞きしてきた現象から「語ったこと」であり、今後あるいは現在の体験や視点を踏まえて、様々な観点から「語りなおされる」必要を多分に含んだトランスジェンダーの意味についての一記述である(例えば、トランスジェンダーという言葉の脱病理化がこのように進んでも、医療的分類としてみなされている以上「脱医療化」あるいは医療現場との対話という観点が今後必要となる)。この記事を読まれた方々はここで歩みを止めることなく、自らのジェンダー問題や社会のジェンダー問題を通して、より具体的なトランスジェンダーの観点を育んで頂くことを望む。
<文/古怒田望人>
古怒田望人(こぬたあさひ) 大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程所属。専門は、トランスジェンダー・スタディーズ、クィア理論、哲学、現象学、フランス現代思想。院生として研究をする傍ら、当事者、非当事者の垣根を越えて集うことのできるサロンやカフェを運営、またライター活動を行う。自身のジェンダーは広くトランスジェンダーであるが「男女どちらの性に対しても『あたりまえnormal』という規範normを姿かたちから切り崩せる」ようなスタイルを模索している。その一環としてフリーモデルも行う。