PCショップの雄「ツクモ」が大量閉店!―― 一体なぜ?

 緑色の看板で親しまれ、全国に店舗を構える老舗パソコンショップ「ツクモ」(九十九電機)が5月14日に大規模な「店舗整理」を発表。多くの自作PC愛好家から悲しみの声があがっている。  今回閉店することになったのは、首都圏にあるツクモ6店舗。「新型コロナウイルスの感染拡大による影響から閉店予定を前倒した」ため発表翌日の5月15日限りで「完全閉店」した店舗もあり、永年親しんだ店舗の「あっけない幕切れ」を嘆く声があがるのも無理はない。しかし、少し待って欲しい。今回の閉店の裏は自作PCファンにとって一概に「不便になる」のみではない。
tsukumo1

ツクモの旗艦店・TSUKUMO eX.(秋葉原)
この店舗は今後も営業を続けることになる。

ヤマダ傘下で「規模拡大」続けたツクモ、ここに来て大量閉店?

 ツクモ(旧・九十九電機)は戦後直後の1947年に無線機器などを販売する店舗として東京・秋葉原で創業。近隣に本店を構えていた家電量販店「石丸電気」「サトームセン」「オノデン」などとともに秋葉原を代表する店舗として親しまれたが、バブル期の不動産投資や価格競争の激化などにより2008年10月に民事再生法を申請。2009年3月には家電量販店最大手のヤマダ電機グループのPC関連ショップとして再スタートを切った。
ツクモ本店と秋葉原の街並み

ツクモ本店と秋葉原の街並み。
「秋葉原の老舗」として地域に溶け込んでいる。

 その後、不採算店舗の整理により店舗網を東京・札幌・名古屋の3地区に縮小したこともあったものの、2014年12月には同じくヤマダ電機傘下となった大手家電量販店「ベスト電器」本店に九州1号店となる「ツクモ福岡店」を出店、2016年1月からはヤマダ電機の都市型店舗「LABI」内に相次ぎ出店、2017年9月には大阪・難波日本橋に「ツクモなんば店」を出店し8年ぶりの関西再進出を果たすなど、経営規模の拡大を続けていた。  それだけに、突然の「大量閉店」に舵を切ったことに驚きの声が上がるのは当然であろう。
ツクモ日本橋店

今年2月に開店したばかりのツクモ日本橋店。今年も新規出店を行っている。

 今回、閉鎖対象となったツクモ6店舗は全てが首都圏の店舗。そのうち4店舗は親会社でありフランチャイズ契約を結ぶヤマダ店舗内インショップ「ツクモ池袋店」「ツクモ吉祥寺店」「ツクモ新橋店」「ツクモ新宿西口店」の各店だ。これらの店舗は元々のヤマダ電機のパソコン売場を転換・移設したものであるが、ツクモとなってからは自作PC初心者やプロユース仕様を対象としたPCの受注組立てサービス(BTO)への対応や廉価なバルク品の拡充が図られるなど、ツクモらしい売場作りが人気を集めていた。また、残る2店舗は秋葉原にある「ツクモDOS/Vパソコン館」「ツクモ12号店」。こちらはお馴染みのジャンクパーツ販売などのほか、近年はASUS(台湾・華碩電脳)のフラッグシップストアを導入するなど秋葉原ならではの個性的な商品展開を特徴としていた(なお「ツクモDOS/Vパソコン館」については業態転換を行い、将来再開店する予定であるとしている)。  ツクモを運営するヤマダ電機グループの「Project White」は「好調なWEB販売部門、法人営業部門及びオリジナルPC開発部門への人的リソース投入」を理由に挙げており、新型コロナウイルス感染拡大を受けて統廃合を前倒ししたとしているが、閉店には別の側面もあろう。

実は秋葉原に「新・ツクモ旗艦店」が誕生していた

 ツクモのヤマダ内インショップがある新宿や池袋は以前から「ビックカメラ」や「ヨドバシカメラ」など「カメラ系家電量販店」の旗艦店があり、遅れて進出したヤマダ電機は、これらとの「差別化の鍵」としてツクモを導入したとみられる。  しかし、競合する大手家電量販店がない新橋を含めて今回閉店するヤマダ内インショップ4店舗はツクモが本店を構える秋葉原からいずれも電車で1本・30分圏内であり、ツクモの秋葉原各店とは競合関係にあるといえた。
新橋駅前のヤマダ電機LABI新橋

新橋駅前のヤマダ電機LABI新橋。
外壁に「ツクモ」の緑の看板が見えるが、秋葉原までは僅か数駅だ。

 一方で、実は秋葉原ではこの1月に「ヤマダ電機LABI秋葉原パソコン館」が「ツクモ秋葉原駅前店」へと転換、ツクモの新たな旗艦店として新装開店したばかりだ。大手PCショップの旗艦店でありながら「僅か数日での改装」だったことに加え、直後に新型コロナウイルスの感染拡大があったために「出店したことさえ知らなかった!」という人も多いのではないだろうか。  秋葉原ではツクモ2店舗の閉店が決まっているものの、秋葉原地区での同社全体の売場面積は以前よりも大きく広がったことになる。PCパーツは買い回りが基本であり、CPUやメモリ、HDDなどパーツ単位で1からPCを組み上げるのであれば、当然「秋葉原1ヶ所で全て揃う」ほうが都合がいい。  つまり、今回の大量閉店は単なる「縮小」ではなく「秋葉原エリアでの経営規模拡大に伴う発展的閉店」であるといえよう。  先述したとおりツクモ秋葉原駅前店は、LABI秋葉原から転換の際には僅か数日休業しただけであり、現在はヤマダ電機時代の売場をそのまま引き継いだ部分も残る。今回閉店するツクモの既存各館も商品構成に一部重複があったため、それらが1ヶ所の大型店に集約されれば「より内容の濃い売場」を実現できることとなる。
改装前のヤマダ電機LABI秋葉原

改装前のヤマダ電機LABI秋葉原。
サトームセンを引き継いだ店舗で、地下1階・地上5階まで6層の売場を持つ大型店。

 近年は、コストパフォーマンスに乏しい国内メーカー製PCが市場での勢いを落とし、VRやeスポーツ、プログラミングが一般層にも話題を集めつつあるなど、PC専門店にとっては「追い風」ともいえる状況になっている。今後はLABI秋葉原跡の新店舗のさらなる改装や、「DOS/Vパソコン館」の業態転換により、以前よりもさらに内容の濃い「ツクモらしい個性的な品揃え」へと変わっていくことが期待される。  

見え隠れする「インテリア」の影――今回閉店したツクモは果たして…

 さて、今回閉店となるツクモの店舗たちは一体どうなるのであろうか。  「ツクモ大量閉店」の理由をもう1つ挙げるならば、ヤマダが「インテリア重視路線」へと転換したことも大きいであろう。ヤマダ電機は2011年に住宅メーカー「エス・バイ・エル」を買収して以降、家電販売事業との相乗効果を実現可能な「スマートハウス」の拡販を推し進めており、その一環として2019年12月には高級家具・インテリア専門店「大塚家具」をグループ傘下に収めている。それにより、2020年2月には都市型店舗である「LABI1日本総本店池袋」「LABI品川大井町」「LABI1なんば」「LABILIFE SELECT千里」を大塚家具とのコラボ店舗に刷新したばかりだ。  ヤマダがこうした「大塚家具とのコラボ店舗」の更なる拡大を目指しているのは当然であり、「ツクモ大量閉店」の影には「大塚家具の存在」も見え隠れする。  今後、ツクモのインショップが撤退したヤマダ電機LABIの店舗では、PC関連商品に代わって「家具・インテリア雑貨」の売場が現れることになるかも知れない。
ツクモ

「ツクモ」の看板が「IDC OTSUKA」へと変わることもあるかも知れないが、果たして……。

<取材・文・撮影/淡川雄太・若杉優貴(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken