まだライターとして駆け出しに過ぎなかったころ、とあるクラウドソーシングサービスを利用して仕事を請けていた。ある時、筆者がかなり熱心に読み込んでいた漫画に関する感想や、内容の考察を求められる仕事に出会った。
報酬も悪くなく、好きな漫画について熱心に語るだけで仕事になるということで先方にも受注の希望を伝え、原稿に関する具体的な相談が始まった。事前の募集要項通りかなり自由に記事を書くことができるようで、担当者の応対も感じのよいものだった。
しかしながら、原稿を埋め込んでいくExcelのシートを渡された際、その中に「記事で取り上げた漫画の部分写真1枚につき追加費用をお支払いします」という一文を見かけた。これはどういうことかというと、端的に言えば「特定の漫画におけるコマ部分をアップロードし、それを貼り付けてくれ」という意味になる。
もちろん、言うまでもなく法的、モラル的にアウトな依頼だ。漫画のコマをWEB上にアップロードすることは著作権法上の違法行為にあたり、それを誰でも閲覧可能な状態でウェブ記事化することなど論外。
加えて、恐らく記事の収益を支えているであろう各種広告サービスでも著作権に抵触するコンテンツの掲載はNGであり、これはクラウドソーシングサービスでも利用規約で厳しく制限されている。
筆者も駆け出しのライターとはいえそのことを知っていたので、結局画像のアップロードには協力せず、作品を読んで自分なりの意見を表明するだけの原稿を送った。先方は画像がないことを指摘してきたが、法的な問題を主張したことでアップロードを強要されることはなかった。
ただ、仮に筆者が画像を添付しなかったとて、公開される際には先方で漫画のコマを添付した可能性が高い。筆者にはそもそも記事が公開されたのか、ボツになったのかどうかさえ分からないが、結果的に違法行為を助長した可能性があるのは大いに反省すべき点だ。それでも、駆け出しで仕事がほとんどないライターにとっては魅力的な経験と報酬であり、それを捨てるという決断はできなかった。
事業者側も対策を講じるが、利用者側のモラルが問われる
上記のような著作権に関する問題は、クラウドソーシングサービスの利用者ならば筆者だけでなく日常的に遭遇する可能性が高いといえよう。すでにWEB上における著作権侵害の問題は各種メディアでたびたび報道されており、画像が違法に使用されているサイトは無数に確認できるからだ。
しかしながら、こうしたクラウドソーシングサービスにつきまとう問題を、事業者側も野放しにしているわけではない。実際、各社は悪質な案件を防ぐ対策を講じている。
例えば、ランサーズでは「仕事依頼ガイドライン」を定め、公序良俗やモラルに反する依頼を禁止している。もちろん、先ほど示したような著作権法違反記事も禁止依頼の一つだ。また、自社で「品質向上委員会」を設置し、掲載される案件やメッセージにおける違反行為に目を光らせ、時には案件の削除なども実施している。
加えてAIを使った違反行為や過剰に安価な案件の判定も行っており、利用者への注意喚起や対応を実現してきた。
しかし、こうした取り組みをもってしても悪質な案件が無くなっているわけではない。一日に掲載される案件や交わされるメッセージ量は膨大であり、全てを把握して瞬時に対応すること、システム上どうしても難しいからだ。
この事実は、事業者側で実施できる対策にはどうしても限界があり、利用者である私たちにも利用上のモラルが求められることを意味する。
発注者として悪質な案件を発信しないのはもちろんだが、仕事を受注する際にそうした案件を避ける必要もあるだろう。当然だが、利用規約や法律に反さずモラルを守った案件を掲載する発注者も多い。そうしたクリーンな案件を受注するように心がけ、万が一作業中に違反行為を求められた際には速やかに運営側へ報告することも重要だ。
筆者は法的な知識があったために著作権を侵害せずに済んだが、一歩間違えば「漫画のコマを違法にアップロードし、商用利用する」という、悪質性の高い違法行為に手を染めてしまうところだった。
冒頭で示したように、昨今は外出自粛が求められる中でクラウドソーシングに慣れない利用者が増加している可能性が高い。初心者にとって貴重な仕事を潰したくないという気持ちは痛いほど理解できるが、違法行為に手を貸さないためにも利用者側のモラル向上が求められる。
<文/齊藤颯人>