政権に批判的な発言を封じ込める政府。コロナ騒動の陰で行われる「検閲」

「自由は終わった」との声も

メッセージを掲げるプレイスネル

Zbigniew Preisner公式Facebookより

 アーティストから挙がっている抗議のなかには、次のようなものがある。以下は、国内外で数々の賞に輝いている作曲家ズビグニェフ・プレイスネルの声だ。日本ではクシシュトフ・キェシロフスキ監督作品の音楽を担当していることでも知られている。(参照:Zbigniew Preisner公式Facebook)  “昨日、ポーランド・ラジオの3チャンネルでは、ポーランド共和国の最悪な時代にすら考えられなかったような歴史が生まれた。カジクは自身の楽曲「お前の痛みは俺のよりマシ」で、マレク・ニェジヴィエツキ(音楽ジャーナリスト)のヒットチャートを制した。数時間後、3チャンネルの編集者トマシュ・コヴァルチェフスキは、編集が投票を無効化したと発表した。特定の楽曲において集計が操作されたうえ、リスト外の曲が選ばれたことで、最終結果が捏造されたとのことだ”  投稿には上記のコメントとともに、プレイスネルが「さらばポーランド・ラジオ3。我々の自由は終わった。我々はいつか戻る!!!」というメッセージを掲げる写真が掲載された。

気になる歌詞の内容は

 では、この騒動を引き起こした歌詞の内容とはどのようなものなのか。以下は、問題となった「お前の痛みは俺のより偉い」の対訳だ。なお、楽曲全体のニュアンスを伝えるため「偉い」と訳しているが、厳密には英語の「Better」にあたる言葉だと考えてほしい。  「お前の痛みは俺のより偉い」  墓地が閉められているのは出来事のせいさ  ここ数週間の、このところの出来事の  (墓地を閉ざす)鎖を見て、涙を拭う  お前と同じように  お前と同じように  (墓地の)門が開いて、目の前の光景が信じられない  もしかしたら物事は変わるのかもしれない  (墓地に)駆けつけると、お前の張り紙は止まれと叫んでいる  だってお前の痛みは俺のより偉いから  お前の痛みは俺のより偉い  痛みを和らげられるのはお前一人  他のみんなは惨めなもんだ  2台のリムジン、ひとつの墓地が全部お前のもの  俺のより偉い  通りと家には  愛の魂が現れる  2台のリムジン、ひとつの墓地が全部お前のもの  俺のより大きい  4年前の4月10日  マリアの娘はタイヤの下に真っ直ぐ消えた  マリアは今日、その門をくぐれない  だってお前の痛みは彼女のより偉いから  お前の痛みは彼女のより偉い  ユゼフには父と妻と息子がいた  そして、その日彼らの時間は止まった  ユゼフは今日その日を思い返せない  お前の痛みは彼のより偉い  お前の痛みは彼のより偉い  痛みを和らげられるのはお前一人  他のみんなは惨めなもんだ  2台のリムジン、ひとつの墓地が全部お前のもの  俺のより偉い  通りと家には  愛の魂が現れる  2台のリムジン、ひとつの墓地が全部お前のもの  俺のより偉い  正直言って、俺は墓地は愛してない  母に言われりゃ彼女と行く  父の墓に花を飾る  お前の痛みは俺のより偉い  お前の痛みは俺のより偉い  みんな、なんて素晴らしい日を授かったんだ  連れ去られたすべての人々を思い返す  (墓地の)通りの反対側に立って涙を流す  お前と同じように  お前と同じように  お前と同じように  お前と同じように  ご覧のとおり、カチンスキ党首の名前こそ出していないものの、かなり直接的に同氏の行動を批判していることがわかるだろう。ロックダウンによって愛する者の墓を訪れることができない人々と、権力を利用してリムジンで乗りつける政治家の姿が対照的だ。
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日本でアーティストが政治を語るとき
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