コロナ消毒で注目される「キッチンハイター(次亜塩素酸ナトリウム)」。その効果と注意点を化学者が解説してみた

次亜塩素酸ナトリウム希釈液の使いかた

 次亜塩素酸ナトリウム希釈液は、その極めて強い酸化力から医療機関でも使われています。水回りをはじめとして、様々なものの消毒に使われますが、強力であるが故に注意すべき点も多いです。 1)人体には使えない  次亜塩素酸ナトリウムは強アルカリのため手指消毒など人体には使えません。 2)強力な漂白力がある  次亜塩素酸ナトリウムは、極めて強力な漂白剤であるために衣服などに付着すると脱色してしまいます。 3)金属を侵すことがある  次亜塩素酸ナトリウムは、強アルカリでありかつ酸化剤であるために金属を強く侵すことがあります。取っ手やドアノブの消毒に用いたあとは、必ず水拭きで取り除いてください。  筆者は学生時代にガールフレンドの指輪が酸化で汚くなったときハイターで再処理したところますます酷くなり、立場が危うくなったことがあります。 4)メラミン樹脂を侵す  次亜塩素酸ナトリウムは、メラミン樹脂を強く侵します。メラミン樹脂は、黄ばむだけでなく強度も衰えます。 5)耐性菌がある  次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系殺菌剤には緑膿菌などが耐性をもちます。かつて平成初期までは、病院などに逆性石鹸や塩素系消毒薬または石炭酸を入れた手洗い洗面器がありましたが、これらは緑膿菌などの培養槽となり、最悪の院内感染源となるために全廃されました。  消毒薬は、都度使い捨てにしていちど何かと接触した薬液の再利用は絶対にしないでください。多剤耐性緑膿菌(MDRP)が蔓延すると、取り返しがつきません。 6)ガラスを侵す  強アルカリ性の物質は、ガラスを時間をかけてゆっくり侵します。アルカリ性の物質をガラス瓶に入れると時間が経過したのちに蓋が溶着して外れなくなります。 7)人体やペット等生体に絶対に取り込まない  次亜塩素酸類などの塩素酸類は、生物にたいへんに有害ですので食べる、飲む、吸い込む、注射するなどの体に取り入れる行為は絶対にしないでください。大統領がヨシと言っても厳禁です。  筆者は、スプレイボトル*に次亜塩素酸ナトリウム希釈液を入れて水回りでは日常的に使っています。たいへんに便利な一方で、次亜塩素酸ナトリウムは家庭内での誤飲事故の皇帝と言っても良いほどに誤飲事故が多く、不幸中の幸いで命を落とさずとも、とても苦しく辛いことになります。  子供やお年寄りなど家族の居る家では、絶対に混同、誤飲しないように厳重に管理と分離をしてください。やはりアルコールを使えば良い場合は、アルコールを使うことを強く強くお勧めします。また次亜塩素酸ナトリウムの恒常的噴霧を行う装置がありますが、耐性菌の問題、事故やものの破損の恐れがありますので、筆者はお勧めできません。塩素系消毒薬は、都度、使うべきところで必要な時のみお使いください。 〈*2020/05/22 21:38追記:スプレイでの消毒薬の運用について読者からの指摘がありましたが、塩素系消毒薬はあくまで毒劇物ですのでスプレイボトルでの運用についてメーカーではQ&A等にて禁止事項にしています。これは次の理由です。 1)かつて消毒薬の噴霧による空間洗浄がたいへんに流行ったが、効果がみられない反面、薬液吸引などによる害が多く有害無益であった 2)スプレイ内部のスプリングなど金属部品が薬液により破損し、思わぬ動作をすることがある 3)眼鏡や保護眼鏡未着用の場合、目に入り失明する可能性が増大する  従って、安全上の理由から花王株式会社はQ&Aにおいてスプレイボトルでの運用を禁止事項としています。(ハイター・スプレイタイプを使えという指示)  筆者は、この手の化学薬品の扱いを熟知していますが、その為に安全基準をフールプルーフ(foolproof) 「何も知らない人が使っても大丈夫なように証明されているもの」へ日常的においていません。本記事では、その点の齟齬が現れています。この点は今後の執筆への強い留意点とします。  従ってこの部分は、一般消費者向けにはスプレイボトルでなく「何らかのプラスチックボトル」にれることを強く推奨とここに注記します。その為に手に薬液が付着する可能性が激増し、別のリスクが大きく増大しますが、失明の可能性は最優先で回避すべきです。  また薬剤を使う際は、眼鏡、または保護眼鏡を着用することを強く推奨します。筆者は、反応事故で熱強酸を顔に浴びましたが、眼鏡のおかげで大事に至りませんでした。化学薬品は、小さなミスで大きな事故に至ることがあります。とくに目は厳重に保護してください。  なお容器は、誤飲防止のために絶対に飲食物と混同するようなラベルの無いものを使ってください。小分け瓶による誤認は誤飲事故の最大の原因となっています〉  また、何度も繰り返しますが、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素酸類を強酸(目安としてはpH3以下、クエン酸を含む)と混ぜると猛毒の塩素ガスが発生します。本邦でも「おうちに帰ったらママがトイレで死んでいた」などの悲惨な事故が多く発生しています。不幸中の幸いで死を免れても肺水腫などを生じて死ぬほど辛い目に遭います。 混ぜるな危険  絶対に忘れないでください。正しく使えば、コロナ禍においても生活がずいぶん楽になります。

手指消毒はどうすれば良いか

 次亜塩素酸ナトリウムは、手指消毒には使えず、アルコールは入手できないという場合、どうすれば良いのでしょうか。基本は石鹸での手洗いですが、それが難しい場合も多くあります。そういった場合に「次亜塩素酸水」が使えるという説があります。  筆者は、平素の備蓄のおかげでアルコールを潤沢に使えるため、次亜塩素酸水を使ったことがありません。巷では、次亜塩素酸水は強力に効いて安全、次亜塩素酸水はニセ科学のインチキだという諸説が入り乱れています。  幸い、厚労省と経産省という異なる立場の官庁からコロナウィルス対策について次亜塩素酸水への見解が出ましたので次回から2度にわたり、それらを用いて次亜塩素酸水について解説します。 ◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ8 <文/牧田寛>
Twitter ID:@BB45_Colorado まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中
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