コスタリカはなぜたったの1か月でコロナ患者を半減させられたのか?

「検査態勢の充実」と「自宅隔離方針」の明確化

 コスタリカの対応で特徴的だと思われるのは、陽性確認者を自宅隔離させるという方針が当初から徹底していたことである。  当初、コスタリカで1日あたり検査できる数は180が限界だった。これを、検査キットと人員を増やすことで、早期に600まで強化した。  また、ICUや隔離病棟の病床数の少なさも心配のタネだった。そこで、国立リハビリセンターを10日間ほどでまるごと改装し、人工呼吸器などを搬入して、COVID-19患者専用の集中隔離入院施設に作り替えた。  それでも、日本を含むあらゆる国と同じように、医者・看護師、病床、医療機器などあらゆる医療資源が間に合わなくなる、いわゆる医療崩壊が当初から懸念されていた。そこで、最初から「入院が必要ではない患者は自宅にて隔離する」という方針が打ち出された。  マスコミも、自宅隔離の具体的な方法を事細かに報道した。国立病院のドクターが、自宅の一室で患者を隔離するシミュレーションを実演し、それをテレビで流すなどして、症状が現れて陽性が判明しても、落ち着いて自宅で他の家族に感染させることなく収束に導く手立てを伝えた。  実際、陽性と判明した人の総数は5月9日現在で780人だが、1日あたりの最大入院患者数は26人(うちICUは14人)に収まっている。つまり、ほとんどの患者は自宅隔離で療養し、そのうち半数がすでに回復したのだ。  実は、最初の1か月は回復者がまったく出てこず、このやり方が正しかったのかどうか、外部からは判断が難しかった。が、ここにきて確実に回復者が増え、かつ死亡者の数も最低限に抑えられている(5月10日現在で7人)。  つまり、早期に検査を行なって症状が重篤化する患者数を抑えつつ、陽性確認者を最大限捕捉することで感染の拡大を抑え、かつ自宅での隔離と養生も成功させた。中でも、陽性確認者とその家族が自宅隔離・療養を各々落ち着いて行ったことが、コスタリカがCOVID-19に比較的うまく対処できている大きな要因となっていると考えていいだろう。

「丸腰国家」だからこそ、この危機を乗り越えられるという「愛国心」の発露

 コスタリカは、たとえば韓国のように、のべつまくなしに検査をしているのではない。これまでに検査をした人の数は約1万人で、人口の0.2%にすぎない。あくまで「症状が出た人」のみに対して検査をし、無症状者を対象にした検査はしていない。  その他の圧倒的大多数は、ひたすら「ステイホーム&手洗い作戦」である。  それにつけても、観光立国であるコスタリカの経済に対するダメージははかり知れない。仕事を失う人も10万や20万では済まなくなる。すでに休失業補償金の振り込みが始まってはいるが、必要とする人たち全員にはまだまだ行き届いていない。労働者の不満が噴出してもおかしくない。  それでも、外出を控え、仕事がなくなっても乗り越えようとする市民一人ひとりの意識の底には、軍隊を持たないコスタリカ=「丸腰国家」に対する強い愛国心がある。  この災禍を乗り越えることは、「丸腰国家」こそがあるべき社会像であることの「証明」となるからだ。「軍隊をすて、教育や医療、福祉に投資してきたからこそ、このパンデミックも他国より少ない被害で乗り越えられた」というロジックだ。  コスタリカに特徴的なことはまだまだたくさんあり、以上は網羅すべき全体像のほんの一部に過ぎないことを申し添えておきたい。制度面以外の要素を解説する機会があれば、追加的に出稿したい。  また、読者諸賢には言うまでもないかもしれないが、他の国や地域と単純な数字の比較はできないということも、一応申し添えておきたい。そのため、数値的比較考察には立ち入らず、純粋にコスタリカの状況を伝えるにとどめておく。これが、まだわからないことだらけの「コロナ(から派生する)議論」の一助になれば幸いである。 「持続可能国家」コスタリカ 第12回 <文・写真/足立力也>
コスタリカ研究者、平和学・紛争解決学研究者。著書に『丸腰国家~軍隊を放棄したコスタリカの平和戦略~』(扶桑社新書)など。コスタリカツアー(年1~2回)では企画から通訳、ガイドも務める。
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