今現在、新型コロナウィルスが蔓延し、世界中の旅行業や小売りが大打撃を受けている中、アプリのあるサービスがタイ国内、特にバンコクで大盛況となっている。それは
フードデリバリーのサービスである。
東南アジアは日本と違い、法的な拘束力のある感染拡大防止策を次々に実施している。タイであれば酒類販売禁止や夜間外出禁止、さらには飲食店の店内サービスまで強制的に休業させられている。商業施設もすべて閉鎖され、あらゆる小売業者が商売停止状態にある。
日本では「
UberEATS」が有名だが、東南アジアはUberが撤退しているため、シンガポール発のタクシー配車アプリ「
Grab」、ドイツ発のデリバリーアプリ「
food panda」、メッセージアプリの「
LINE」がそれぞれフードデリバリーサービスを持っていて、これらはクレジットカードを登録してもいいし、現金での支払いなども可能だ。都心は企業が多いので、飲食店はどこも混雑する。そんな環境なので、アプリを使って昼食を確保する会社員が増え、2019年前後から利用率が上がってきていた。先のGrabは2018年は1年間で300万件の受注があったが、2019年は4月までに400万件に達したほどの利用率の変化だ。
タイのフードデリバリーアプリ業界を開拓したとされるのが「food panda」
それがこの事態になり、かつバンコクを中心にテイクアウトのみしかできなくなった今、さらに需要が高まっている。一般市民たちはこういったフードデリバリーを利用して食料を確保している。日中は外出可能ではあるが、極力、接する人数を必要最低限に収めたい。そんな需要によってフードデリバリーサービスが改めて見直されているのだ。
店内販売が禁止になり、テイクアウトのみのレストランに食品を受け取りに来る配達員
注文できるのは登録店のみになる。死活問題でもあるので、ほとんどの飲食店がいずれかのサービスに登録していて、近所にあるようななんの特徴もない屋台でさえも登録している。つまり、基本的にはなんでも注文できるアプリになってきている。
また、店によって違うが、配達料を別途請求されることもなく、店舗で注文したときと同じ値段で、たったひとつから配達してくれる。屋台ならそれこそ数十円の食べものや飲みものを、配達員がそれだけのためにバイクなどで走ってきてくれるのだ。
ただ、登録店はアプリの運営会社に30%以上もの紹介手数料を払わされているので、そういった配達費のしわ寄せは結局登録の飲食店が被ることになるのだが。ユーザーからすれば店舗にウィルス感染のリスクを冒してまで行く必要もなければ、安い料金で食事が手に入る。使わない手はないのだ。
一方で、これはバンコクとそのほか人口の多い都市部でしか利用できないサービスでもある。タイは昔からバンコク都と他県の情報や収入などの格差が非常に大きいのだが、このアプリサービスの充実度の違いで改めて格差が浮き彫りになった。この新型ウィルスの蔓延は病気の問題だけでなく、様々な社会問題を我々に突きつけていこうとしている。
デパートなども営業停止中のタイだが、中の銀行や飲食店は一部営業している
<取材・文・撮影/高田胤臣>