維新・吉村府知事人気とは何なのか? 無検証で持ち上げるメディア、そこに映る印象だけで「英雄」を待望する愚

吉村洋文大阪府知事

吉村洋文大阪府知事 (写真/時事通信社)

ネットで高まる「吉村洋文大阪府知事&維新」人気

 大阪府の吉村洋文知事(大阪維新の会代表代行)の人気が全国的に急上昇している。大阪府のトップとして新型コロナウイルスの感染拡大防止に務め、矢継ぎ早に思い切った措置を打ち出す。繰り出す言葉も淀みがなく自信にあふれているように見える。その姿が新聞やテレビで全国へ報じられたことで「吉村人気」は爆発的に上昇した。  政治家、知事としては年齢が44歳と若く、ハンサムで長身という見た目の良さも人気アップに一役買ったのかもしれない。歌手の小柳ルミ子さんも自身のブログで吉村知事を「真のリーダー」と持ち上げたほどである。  さらに連日のテレビ出演は、これまで大阪限定だった維新人気を全国へ拡げる効果もあった。そのためだろうか、毎日新聞の世論調査(4月18、19日実施)では日本維新の会の政党支持率は立憲民主党を抜いて野党トップになったほどである。  その吉村知事だが、記者会見などテレビに映る最近の姿は疲れ気味のご様子。果たして彼の健康を心配した支持者が始めたのか、それとも別の思惑が隠されているのか、ツイッター上では知事の寝不足を心配する「#吉村寝ろ」というハッシュタグが登場し、これに同意した人たちの手によって拡散された。  睡眠時間にまで注目が集まるほど吉村知事の人気が急上昇したのはテレビ出演だけが理由ではない。のろのろとした政府の動きとは違ってコロナ対策に関しては大阪府の動きはスピード感にあふれている印象があり、人気アップに拍車をかけた。  都合の悪い公文書は速攻でシュレッダーにかけるのに、国民への新型コロナの経済対策に関しては政府・与党の対応はのろまだった。当初は「お肉券」だったかと思えば、次に減収世帯に条件付きで30万円を支給する措置へと変わり、最後は世論と与野党の声に押されて国民1人あたり一律10万円の給付に決定。その迷走ぶりとアベノマスクの不評も手伝ってか、どのメディアの世論調査を見ても安倍晋三内閣の支持率は下がる一方、まるでいいとこナシである。  対して、早くから緊急事態宣言を出すべきだと政府に要請し、また感染者が立ち寄った場所を進んで公表したりと大阪府の意思決定は素早かった。政府と大阪府、両者が繰り出す政策の明暗差は最初からはっきりしており、吉村知事の人気沸騰の影には彼の実行力と判断力の裏づけがあったのは確かだろう。

なんの検証もなくヨイショ記事を垂れ流すメディアの怠慢

 メディアにも異変が起こっている。主にネットを中心としたメディアで吉村知事称賛の記事が目立つようになった。例えば4月22日付けのプレジデントオンラインは、『これが対コロナ最強布陣 「橋下総理、小池長官、吉村厚生相」』という記事を掲載し、橋下徹元大阪市長、小池百合子都知事らと共に吉村知事を持ち上げ、将来の国務大臣に推している。  このほかにも一部のスポーツ紙は吉村知事の主張を垂れ流す広報機関と化し、Twitter Japanにいたっては、「日本初」と銘打って同社の社長と吉村知事との「ライブ対談」を4月28日に始めるとアナウンス。「大阪府政や新型コロナ対策まで、お考えやお気持ちを笹本がお伺いします」と、まるで国民的アイドルにご登場いただくかのような破格の扱いである。ここまで来ると、ネット世論の後押しとメディア総動員で吉村知事をヒーロー化する政治的な思惑が背後に潜んでいるのかと疑ってしまう。  なるほど、吉村知事の人気や評価が上がってきたのは正当な理由があるだろう。だからメディアは絶賛するのかもしれない。ただし、人気があるから「将来の総理大臣に」「次の厚生労働大臣だ」という思考はあまりに短絡すぎないか何の検証もなく、ただただ人気に便乗してヨイショ記事を垂れ流すメディアは、あまりに仕事をサボりすぎではないのか。これは吉村知事がどうのこうのという話ではなく、誰が政治家や行政トップであっても言えることである。小池さんでも橋下さんでも、あるいは石破さんや岸田さん、蓮舫さんや山本さんでも同じことだ。
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危機に「英雄」を求める危うさ
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