前回、トラックドライバーの差別問題でも言及したように、一部の消費者からは「全国走り回りながらウイルスをまき散らすな」といった心無い声が掛けられる。
そんな言葉に反し、彼ら自身は単独行動が多く、感染することもさせることも確率的には低い。しかし、身を清められない日が続くとなると話は別だ。
今回、各ガソリンスタンドのシャワールームが閉鎖された原因は、察しの通り「施設内でのコロナ感染防止」によるものなのだが、彼らの衛生面が悪化し、感染リスクが高まれば、本末転倒以外のなにものでもないのである。
ただ、このガソリンスタンドのシャワールームは、そのほとんどがガソリンスタンド側の厚意で開放してくれているものであるため、店側に直接「シャワー利用はドライバーの権利だ」などと強く主張することは無論できない。
が、彼らドライバーとしては、ウイルス対策としてはもちろん、これからの「季節」を考えるとシャワーを利用しない訳にもいかないため、今回ガソリンスタンドのシャワールームが利用できなくなっていた期間、サービスエリアなど他の施設ではこれまで以上に混雑が生じたという。
こうして「シャワー難民」と化したトラックドライバーの中には、
「ガソリンスタンドのシャワールーム利用再開までの期間、30分で移動厳守、もちろん有料でいいから、車高4mのクルマが駐車可能なラブホや大型ホテルさん、誰か手を上げてくれたらいいのに。街道沿い&インターチェンジ傍に沢山あるし」
「大型の観光ホテルに関しては、観光バス用の駐車場が既にあるという、メリットもあります」
といったやり取りも。それほどドライバーにとって今回の件は死活問題だったのだ。
こうした悲痛な現場からの声や国からの働きかけによって、4月23日ごろから、全国の各ガソリンスタンドは順次再開を決定。全国を走り回っているドライバーたちは、その素早いガソリンスタンドの対応に胸をなでおろし、筆者も入稿していた原稿を急遽修正するという嬉しい手間に追われた次第だ。
シャワールームがあることで人気のラーメン店「山岡家」
一時はドライバーの感染率の上昇さえ懸念された今回の件だが、この出来事に対して募集したアンケートで、現役ドライバーから「便利だ」という声が相次いだ店がある。全国展開するラーメン店「ラーメン山岡家」だ。
店舗の多くが24時間営業で、大型車が何台も入る駐車場を持っているのだが、さらには店舗によって食事をしたら無料で使えるシャワーまで付いているため、普段から「トラックドライバーに優しいラーメン店」として親しまれている。
今回、ある店舗に確認してみたところ、ガソリンスタンドのシャワールームが閉鎖していた期間も、「利用停止という話はない」とのことだった。
トラックドライバー以外でも利用できるというが、「ガソリンスタンドのシャワールームが使えなくなって以降、シャワーが混んだりしていないか」と聞いたところ、「そんなことないですよ。コロナでお客さん全体の数が減ってしまったので」という、飲食店側の切実な声も聞こえてきた。
我々のインフラを守るために、コロナ禍の状況下でも昼夜を問わず走り続けるトラックドライバー。
シャワーに入れないことになれば、シャワールームで感染する以前に、衛生上、感染リスクが高まる可能性も考えられなくもないし、「臭い」などといった偏見を持たれるきっかけにもなる。
感染防止対策は慎重に講じながらも、引き続き全国のシャワールームの存続を願ってやまない。
<取材・文・写真/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『
トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは
@AikiHashimoto