中国の武漢市にて大規模な感染症騒動が明らかとなって既に15週間近くが経過しています。新型コロナウィルスは、主として呼吸器感染症で、咳やくしゃみ、会話などによる飛沫で感染すると言われています。またウィルスの環境耐性が予想以上に高くエアロゾルとしても感染する可能性が論じられています。なお、空気感染は確認されていません。
そのほかに病原体によって汚染されたものを触って手で口や鼻や目を触る事がきわめて大きな感染経路と考えられています*。また病原体が付着した食物を食べるなどが感染経路として疑われていますが、消化器官は感染経路になりにくいとされています。
〈*なぜ人は顔を触るのか 「生まれ持った」習慣を止める方法は?2020/03/16 BBCニュース:BBCは、顔を絶対に触るなキャンペーンを3月中旬から行ってきている。医師や看護師は、手洗い習慣と同様に顔を触らないように訓練を受けているとのこと〉
これらの感染経路からの感染を防ぐ手段としてマスクの着用は意味があるかという論争がこの12週間近く続きました。
CDC(合衆国疾病対策センター)やWHO(世界保健機関)によるかつての公式な説明は、「健康な人がマスクを着用しても意味がない」というもので、各国政府、医学界もそれを踏襲していましたし、現在もWHOは見解を変えていません。
しかし、去る3月31日のホワイトハウスにおける新型コロナウィルス対策タスクフォースの記者会見においてCDCは、健康な市民のマスク着用に関する見解を転換することを発表しました。
1)CDCは、健康な市民にも日常的なマスクの着用を推奨する
2)現在マスク着用の義務化も検討中である
そしてマスクについては次のように言及しました。
a)N95マスクは特殊なもので、医療機関専用と考えている。現在供給が逼迫しており一般人の使用はやめて欲しい
b)一般向けには布マスクを推奨する。布マスクは再利用が可能である
c)不織布マスクも再利用可能である
この記者会見は全米へ中継され、既に報道*もなされています。
〈*Memos from CDC to White House lay out rationale for possible widespread use of nonmedical masks 2020/04/01EST The Washington Post、C.D.C. Weighs Advising Everyone to Wear a Mask 2020/03/31 EST The New York Times〉
これまで一般人のマスク着用は無意味としてきたCDCがこのようにガイダンスを180°転換することは滅多に見ることができません。そしてCDCが根拠なくこの様な転換を行うことはあり得ませんので何らかの明確な根拠を掴んだと言うことでしょう。このことは今後詳細が公表されると思われます。
現時点でのCDCからの公式発表は2020/04/03(EST)に行われたものです*。
〈*Recommendation Regarding the Use of Cloth Face Coverings 2020/04/03EST CDC〉
これによってCDCは、これまでの健康な人にはマスク無用というガイダンスを撤廃し、健康な人は外出時に布で顔を覆う(マスクをする)ことを勧告しました。顔を覆うものならばマスクでもなんでも良いという勧告です。合衆国には挨拶文化があり、とくに口元の表情は敵意がないことを示すために極めて重要としてきましたので、マスクで口元を覆うことはタブーに近いものです*。したがって、これは疾病対策で合衆国の文化、習慣を大きく変える社会的に重要なものと言えます。
〈*筆者が在米中、街中ですれ違う、見ず知らずの人々が”Hi”といって歯を見せて笑顔を示す挨拶がどうしても不思議だったので、現地の日系人二世に質問したところ、「そうやって敵意がないことを見せないと撃ち合いになってもしらないよ。」という答えであった。何処まで本気かは分からないが、一人当たり銃が二丁以上ある社会において敵意がないことを見せることは重要で、それが口ものと表情ということであった。スパイダーマンなどの一部例外を除き、メリケンヒーローの口元露出率は高い〉
世界は「マスク義務化」の流れに
4月3日(EST)の記者会見で、トランプ大統領が、「マスクでも何でも良いから顔を覆うんだ、でも俺はマスク付けないぜ。」と発言する珍事がありました*が、これは口元を隠すことは好ましくないという価値観によるものと思われます。その一方で、「マフラーでも良いんだぜ、分厚いぜ。」と口を挟むなど、顔を触らないように口と鼻を覆うことを考えていることが窺えます。
〈*米保健当局がマスク使用を指示、トランプ大統領「自分はしない」 2020/04/04 JST BBC〉
なおCDCによるマスク推奨の理由として大きなものは、もし自分自身が無症状感染者の場合、マスクをすることで他人に感染させる危険を減ずるというものがあります。これも日本では「無症状感染者は少ない」「無症状感染者から感染する可能性は低い」という単なる楽観的願望に基づいたデマゴギーが国や数多くの国策翼賛デマゴーグによってばら撒かれてきましたが、CDCによると無症状感染者は感染者の25%におよび、無症状感染者は強い感染伝搬力を持つという知見によって完全に否定されています。最近の国外報道では、無症状感染者は25%どころかもっと多い可能性も示唆されています。
また、同時に一般向けの説明も公開されました*。この変わり身の早さは、さすが合衆国と感心します。過去150年に及び常に過ちを認めず、失敗を深刻化させ、棄民政策で市民を見殺しにし続け、遂には21世紀末の滅亡が人口動態から予測される日本政府と交換したいものです。
〈*Cloth Face Coverings: Questions and Answers 2020/04/04 CDC〉
本邦では、ヒノマル国策翼賛デマゴーグが、「マスクは不要」プロパガンダをまき散らし、市中ではマスク着用者に対する暴力的行為にまで及んでいるというSNSにおける話題までありました。しかし彼らのドグマ(教義)は、CDCの方針変換によって完膚なきまでに否定されました。
現時点でのCDCの見解は、「健康な市民であってもマスク着用はその義務化を検討するほどに有効である」というものです。
そして時をほぼ同時にして全世界でマスク義務化を含むマスク推奨キャンペーン、街頭での高性能不織布マスクの無償配布*が始まり、街ゆく人々がマスクを着用している風景に一変しました。
〈*Coronavirus: Why you now have to wear a mask in Austrian shops – 2020/04/06 GMT BBC、トルコ、市民に「マスク週5枚」 街頭でも配布2020/04/06 JST時事通信〉