そんな法案が厳戒態勢下で再び持ち上がったことから、国民やメディアからは
コロナ危機に乗じているとの意見も出ている。
イギリスの「
BBC」は、「ポーランドの中絶:禁止に対して抗議者たちはコロナウイルスのロックダウンに抗う」という見出しで、次のように報じた。(参照:
BBC)
“集会は禁止されているが、動画は火曜日にワルシャワとポズナンで人々が2メートル離れながら、プラカードを持っている様子を捉えている<中略>活動家たちは、反対派が大規模な路上での抗議を行えないことから、
保守的な政治家がコロナウイルスによるロックダウンを利用するのではないかと懸念している”
このように、ポーランドでは改正法案に対して、
ソーシャル・ディスタンシングを保った抗議や
車を使ったデモ、
ストライキ、
SNS上での反対キャンペーンが行われている。
「
アムネスティ・インターナショナル」はその様子を公式ツイッター上で取り上げ、下記のようなコメントを発表した。(参照:Amnesty International)
「性教育や女性の選ぶ権利ではなく、ウイルスと戦ってください。我々はポーランドの抗議者と連帯します」
以前は否決されたものの、定期的に議論される中絶禁止改正法案。現地で話を聞いてみると、20代後半から30代の間では、改正法案に対して否定的な意見が多かった。
「中絶禁止改正法案が可決されれば、たとえ
胎児が死んでいても中絶することはできません。精神的にも肉体的にも、とても
女性のことを考えているとは思えない。今はどっちつかずな姿勢を見せていますが、これまでの言動からも大統領選が終われば、
与党が法案を推進することは間違いないでしょう」(女性・29歳)
「法案の支持者に多いのは、年寄りや若年層。要は
直接妊娠中絶に関係のない人たちです。
数の力で、実際に身籠もる女性の声がかき消されるのは非常に危険だと思います。
コロナ対策に手一杯な状況なのに出すなんて、しっかり
議論する気が感じられません」(女性・38歳)
とはいえ、こうした意見やロックダウン下のデモに対して辛辣な声もある。
「
カトリック信仰が根強いポーランドで、中絶や同性愛に厳しい法律が議論されるのは仕方ない。そういう文化なんだから、
EUや他国の価値観を無理矢理押し進めるのもどうかと思う。それに距離を保っていても、外出が規制されているのに集まってるのは謎。抗議したいだけじゃないの?」(男性・36歳)
そもそも、このタイミングで慎重な議論を要する法案が提出されることがなければ、デモが起きることもなかったわけだが……。
「ポーランドの中絶禁止」と聞くと、
無関係なことのように思えるかもしれない。しかし、世界がコロナショックに揺れるなか、この事態がどのような顛末を迎えるかは、決して他人事ではない。日常生活や社会活動が制限されるなかでの
コロナの陰に隠れたルール変更は、どこの国でも起こりうる話だ。
ウイルスによる影響はもちろんだが、
混乱に乗じた政策によって、収束後の世界はすっかり違う景色に……という結末にならなければよいのだが。
<取材・文/林 泰人>
ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン