コロナ禍の中、物流を担うドライバーへの理不尽な差別が横行。それは決して許されない

他にも、多くのドライバーが心無い言葉を浴びている

 また今回この報道を受け、トラックドライバーをはじめとする物流関係者に「コロナ騒動によって職業差別を受けたことはあるか」とSNSで問うたところ、ある地方から関西・中京・関東方面へ食品関係の荷物を運んでいるドライバーから「自分が長距離ドライバーということで、妻がアルバイト先から2週間の自宅待機の要請を受けた。子どもたちも通学停止になりそうだ」という報告があった(新居浜市の事例後の顛末を聞いたところ、撤回されたという)。  その他にも、 「弊社のドライバーが『皆が行動を自粛している中、お前らはよく色んな所へ行けるな。お前らが全国に撒き散らしているのと違うか』と罵られたとの報告があった」 「近所の人から『外出自粛要請が出ているのにウロウロするな』と言われた」 など、多くのトラックドライバーに心無い言葉が浴びせられている実態が分かった。  実際、トラックドライバー目線で取材や執筆をしている筆者自身にも「仕事があるだけいいと思え」「全国走り回ってウイルスをまき散らすな」といったドライバーを非難・差別する内容のメールが送られてきている。  前回にも紹介した通り、新型コロナウイルスの影響で、物流は現在ひっ迫している。  世の経済活動の減退によって荷量が減り、仕事と生活費を失いかけるドライバーがいる一方、社会インフラに直結する備蓄品や「巣籠り消費」に携わるドライバーにとっては、毎日が戦いだ。  物流・運送業はカタチとして残らず、自分たちの依頼した荷物がどうやって運ばれているかも世間にはほとんど意識されることがない。  とりわけ一次輸送(いわゆるB to B)を担うドライバーにおいては、消費者と直接的に関わることが全くといっていいほどないため、悲しいことにその存在が意識されるのは、居場所がなく停めた路上駐車時と、運転マナーが悪いと文句を浴びせられる時くらいだ。  日々の努力は「送料無料」という表現でコスト扱いされ、商品そのものの原価よりも前に「値引交渉の対象」とされる始末。  が、貨物輸送の9割はそんなトラックが担っている。これは、今顔を上げて目に映るモノのほとんどが一度はトラックに乗ってきたことを意味している。  インフラを下支えしているドライバーたちは、コロナ禍で感謝されこそすれ、差別など到底あってはならない。

トラックドライバーの実態は「3密」とは程遠い

 今回のようなコロナ禍による差別的言動は、消費者が普段どれだけ「目に見えない人」に支えられていることを意識していないかが分かる典型的な例と言える。  そもそもトラックドライバーが感染拡大地域、またはその他の地域で感染する率は、下手に「東京から他県へ旅行し、50人もの団体と神社を参拝する」よりもはるかに低い。彼らはどこに行こうとも、1人で行動することがほとんどだからだ。  また、荷主先ではずいぶん前からマスク着用義務や検温検査がなされており、荷積み・降ろし作業も幸か不幸か、1人でさせられることが多い。  こうした実態も把握せず「長距離トラックドライバー=高感染率者」と決めつけ、健康状態に問題のないその子どもに通学させないとするのは、完全なる偏見でしかないのだ。  今年初め、筆者が新居浜地区のトラック協会で講演会を行っていた縁で、関係者にその後の話を聞くことができた。  後日、新居浜市長と教育委員長が、トラック協会の同地区協会会長の元を訪問。同席した関係者が要求していた顛末書と、小中学生やその保護者に向けて作成した「いじめ防止」に対する文書が提出されたという。
子供たちに出された「呼びかけ」

その後、愛媛県新居浜市の小学校は保護者に謝罪し顛末書を提出。子供たちには、このように呼びかけた

 説明を受けた当該の子どもも、自分の父親の仕事を「すごい仕事なんだよね」と誇らしげに語っていたそうだ。  物流はリレーだ。決して自宅の玄関は「どこでもドア」ではない。  この記事の原稿執筆中、ある荷主元の作業員からこんなメッセージが届いた。 「自分の会社にドライバーさんが集配に来られた際は、微力ですがサポートさせて頂いています。普段は赤の他人ですが、もので繋がっている、必ず届けるという責任は同じですので」  我々がこうした有事の只中でも普段通りに買い物ができるのには、見えずとも確実になされているこうした荷のリレーがあることを忘れてはならない。 <取材・文・写真/橋本愛喜>
フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto
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