国民がコロナ禍で苦しむ中、火事場泥棒的に保身のための法案成立を急ぐ安倍政権。検察庁法改正案の問題点とは?

違法な「解釈変更」

 前述のとおり、検察庁法22条は検事総長以外の検察官の定年を63歳と定めており、かつ、勤務延長については何も定めていない。この点については、国家公務員法の定年制を導入した際の国会の議論も、また、従来の政府解釈も、国家公務員法の定年制に関する規定は検察官に適用されないとしていた。つまり、検察官の勤務延長は無い、ということである。なお、国家公務員法へ定年制に関する条文が追加されたのは昭和56年である。  従来の解釈については、安倍総理も2月13日衆議院本会議答弁において、認めている。 「検察官については、昭和56年当時、国家公務員法の定年制は検察庁法により、適用除外されていると理解されていたものと承知しております。他方、検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法に定められている特例以外については一般法たる国家公務員法が適用されるという関係にあり、検察官の勤務延長については国家公務員法の規定が適用されると解釈することとしたところです。」  ここで「定年制」と言っているのは国家公務員法81条の3を含む定年制に関連する条文全てである(定年とその延長は別というのは屁理屈である。一緒に導入された制度なのだから)。したがって、勤務延長制度は検察官については適用されないというのが制定当時の法解釈であることを、安倍総理自身も認めたということである。しかし、結局検察官に勤務延長が適用されると「解釈することとした」と言っているので、解釈変更を認めたことになる。  なお、この答弁が行われた2月13日本会議の議事録は、本稿執筆時点において、なぜか衆議院のサイトに掲載されていない。証拠として4月19日現在のサイトのスクリーンショットを掲載しておく。
衆議院のサイト、4月19日現在のサイトのスクリーンショット

衆議院のサイト、4月19日現在のサイトのスクリーンショット

 見てのとおり、なぜか2月13日の「6号」だけが無い。なお、欠けているのは6号のみであり、他の日の議事録は全て掲載されている。今日時点で、3月19日の議事録(第11号)までが掲載されていることが確認できる。  先ほどの安倍総理の答弁は、衆議院のインターネット審議中継のビデオライブラリーを見て、私が文字起こしをしたものである。高井たかし議員の質問に対する回答(1:35:18~)を見ると確認できる。(*高井議員の質問シーンだけが収録されている高井議員のYouTubeチャンネルも貼っておく)  都合の悪い答弁が入っているので議事録を掲載しなかったのであろうか。  この解釈変更は違法である。法律は制定当時の法解釈と一体であり、従来の法解釈を勝手に変更することは、法改正をするのと同じである。そして、法改正は国会にしかできない。内閣の勝手な解釈変更は三権分立の大原則に反する。時の権力者の勝手な判断で事実上の法改正が可能になれば、権力者の暴走を抑えることができなくなる(現に暴走している)。  ここまでの話をまとめると次のとおりである。 ①国家公務員法の勤務延長規定を検察官に適用すること自体違法 ②仮に①が合法でも、勤務延長の適用要件を満たしていないので違法  いずれにしても違法。というのが私の結論である。

法改正の中身

 4月16日に衆議院で審議入りした改正案の名前は「国家公務員法等の一部を改正する法律案」である。表向きは、現行60歳となっている国家公務員の定年を2022年度から2年ごとに1歳のペースで段階的に引き上げていき、2030年度から65歳にすることがメインである。この法案に検察庁法の改正も含まれているのである。検察官の場合、もともと63歳であるため、2022年度に64歳、2024年度に65歳となる。この定年の引上げ自体は、年金の支給開始年齢の引上げとも関連し、前から決まっていたものと思われる。(参照:国家公務員法等の一部を改正する法律案の概要)  そして、63歳になった者は、検事総長を補佐する最高検次長検事や、高検検事長、各地検トップの検事正などの役職に原則として就任できなくなる役職定年制が設けられた。63歳を過ぎたら役職を降りてヒラ検事になるということである。しかし、ヒラ検事にすることによって「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるとき」は、最大1年延長できるとしているが、この事由が引き続きある時は、延長を繰り返すことができるようになっている。トータルの延長上限は書かれていない。しかし、定年が来たら退職せざるを得ないので、定年までが上限ということであろう。  具体例で言うと、検事長は63歳まで、その後はヒラ検事になるのが原則だが、「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由」があるときは、検事長の任期を延長できるということである。  先ほど指摘したとおり、検事長等の高位の役職にある者について、それがヒラ検事になることにより、「公務の運営に著しい支障が生ずる場合」などあるはずがない。具体的な事件の捜査・公判は現場の検事がやっているからである。  結局、検事長等の任期が延長される場合というのは、事実上、任命権者である内閣に気に入られた場合と解釈する以外に無い。  なお、これは「役職延長」である。「勤務延長」とはまた違う。役職を延長したくても、定年を迎える場合は定年退職せざるを得ない。定年退職を避けるには勤務延長規定を適用する必要がある。改正法では、従来の国家公務員法81条の3が、81条の7に変わり、要件も微妙に緩くなっている。勤務延長についてはこれが適用されることになる。そして、改正法では、この勤務延長規定が検察官にも適用されることが正面から規定されている。今回安倍内閣がやったことと同じことを、堂々とできることになる。  なお、この勤務延長規定については、検事総長も適用対象から外されていない。これは非常に恐ろしいことである。検事総長の定年は改正前からもともと65歳である。ここで勤務延長規定を適用してフルに延長すると、68歳まで延長することが法律上可能になってしまうのである。  まとめると、時の内閣の気分次第で検察官の役職も定年も延長出来てしまうということである。こんな法改正を通してしまえば、検察は絶対に時の政権に逆らうことができなくなり、不正は野放しにされるだろう。安倍内閣は明らかにそれを狙っている。モリカケ問題に始まり、最近では桜を見る会疑惑で国会が大騒ぎになった。端的に言えば安倍総理が犯罪行為に関与していたのではないかということが問題になっているのである。安倍総理にとって今最も恐ろしいのは検察なのだろう。だからかねてより政権の言いなりと批判されている黒川氏の勤務を延長し、検事総長に就かせることを画策している。  コロナでこんなに国民が苦しんでいる時に、安倍総理は自分の保身のためだけに不要不急の法案を成立させようとしているのである。
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鍵は稲田検事総長が握っている
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