国民の命よりカネに固執して遅れた五輪延期の判断。延期でも経費はさらに倍増。東京五輪は亡国への道<本間龍>
月刊日本5月号(4月21日発売)」で、オリンピックの無償ボランティアの闇を描いた『ブラックボランティア』(角川新書)の著者である著述家の本間龍氏が詳らかにしている。
―― 東京五輪の延期が決定しました。
本間龍氏(以下、本間): 延期によって問題が解決されたわけではなく、むしろ問題はより一層深刻になってしまったと思います。今後、「マネーファースト」の商業五輪の弊害はますます拡大していきます。
今回の決定に至るプロセスは、まさに商業五輪の本質を暴露したものだったといえます。延期を決定するタイミングが遅れたのも、延期後の日程が来年の夏になったのも、全てカネの事情です。
もともとIOCや日本政府、東京都、大会組織委員会(組織委)は予定通りに東京五輪を開催したがっていました。中止になったら利益や投資がすべて水の泡で、延期でも莫大な追加コストがかかるからです。そのため、ギリギリまで判断を遅らせようとしていました。
しかし2月中に予定されていた五輪選考の予選大会はすべて吹っ飛び、2月下旬には国際的に「今年の開催は無理だ」という暗黙の了解ができていた。それでもIOCは3月17日に「開幕まで4カ月以上も前に抜本的な決断を下す必要はない」と、予定を変えない意向を示していました。
これに対して世界中のオリパラ委員会や競技連盟、アスリートから猛批判の声が上がりました。3月22日にはカナダのオリンピック委員会が「今夏開催の五輪には選手団を派遣しない」と発表する事態にまでなりました。これを受けてIOCは、翌23日に「延期を含めて検討を開始する。4週間以内に結論を出す」と発表しましたが、これまた批判にさらされて、翌24日の夜にバッハ会長と安倍総理が電話会談で延期を合意せざるをえなかったということです。
東京五輪は「アスリートファースト」を掲げていましたが、実際にはギリギリまでカネにしがみつこうとして、世界中のアスリートから総スカンを食らってやむをえず延期に追い込まれたということです。結局、いざという時に出てきたのはアスリートへの配慮ではなく、カネの心配だったわけです。一連の中止・延期騒動によって、「マネーファースト&アスリートラスト」である商業五輪の本質が浮き彫りになったといえます。
―― 延期決定の背景には、米放送最大手であるNBCの存在があったと指摘されています。
本間:NBCはIOC最大のスポンサーで、2014年冬季大会から2032年夏季大会まで総額120億ドル(約1兆3000億円)の契約を結んでいます。
当然、IOCはNBCの意向を無視することができない。現にIOCが延期を決定した前日には、NBCが「いかなる結論でも従う」という声明を発表して延期を容認していたのです。NBCが延期を容認したのは、得もしないが損もしないというソロバン勘定です。NBCは「保険などで損失は出ない」と言っていました。
―― 延期後の日程は「来年の夏」に決まりました。
本間:それもNBCの都合です。たとえば大会組織委の高橋治之理事は「1年未満の延期は、米国の野球やアメフト、欧州のサッカーなど主要なスポーツイベントとぶつかるため、困難」と発言しています。
結局、東京五輪はNBCがカネを儲ける手段であり、最優先されたのはNBCの意向だということです。日本はNBCのビジネスに踊らされているにすぎません。
―― 「マネーファースト」の結果、さまざまな弊害が生まれています。
本間:日本の場合でいえば、決断を遅らせた結果、コロナ対策が遅れたという側面は否定できないと思います。五輪延期が決定した3月24日以降、東京都内の感染者数は急増しましたが、そんな偶然があり得るのか。東京五輪の開催を見越して、感染者数の発表を意図的に抑えていたとしか思えない。「人命」よりも「カネ」を優先したということです。
しかしこれは今に始まったことではない。もともと東京五輪は猛暑で選手や観客、ボランティアの生命を危険に晒していました。組織委や東京都、日本政府の体質はコロナでも変わらなかったということです。
日増しに新型コロナの感染者数が増えていく日本。いまでこそ緊急事態宣言を出して自粛要請している安倍政権だが、完全に「後手後手」となっており、終息の気配はいまだ見えてこない。
それもそのはず、安倍政権は組織委や東京都と一緒になって、つい最近までオリンピックをやる気でいたからである。
なぜ、オリンピックに固執し、後手後手に回ったのか? その背景について、21日発売の「「マネーファースト」の延期決定
根拠なき「来年の夏」もスポンサー都合
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