コロナ離婚やDVを未然に防ぐ、倦怠期夫婦もの映画7選

3:『タリーと私の秘密の時間』(2018)

タリ―と私の秘密の時間 3人目の子供が生まれ子育てに疲れ切った母親のところに、夜中だけを担当するベビーシッターの女性が来ることから始まる物語だ。まず、本作はぜひ男性、特にこれから父親になる人にこそ観て欲しい。それは「子供を時に孤独に育てているお母さんは、お前が思っているよりもはるかに大変だぞ!」という至極当たり前のことが、これでもかと描かれているからだ。  夫は急な出張で2、3日家を空けることも多く、家のことは基本的に妻に任せっきりなばかりか、家ではテレビゲームでダラダラと遊んでいたりもする。妻の激太りぶりや、赤ちゃんの世話のルーティンを延々と手早く描く演出からは、ワンオペ育児の苦労が想像をはるかに超えているということが絶対に伝わるはずだ。そんな妻にとって、若くてサバサバした性格のベビーシッターの女性と話す時間は癒しそのものになっていく。妻にとって「夫や家族以外の誰かと話すきっかけを持つ」ということは、何よりのストレス解消方法であり、円満な家族関係を保つための秘訣だと受け取る方も多いだろう。  子育てにまつわる困難を描くだけでなく、普遍的な“夢”への向き合い方を描きつつ、終盤には“ある秘密”も明かされるなど、多層的な構造を持つ作品だ。そして「現状のストレスを受け入れていく(生活を工夫して改善していく)」という内容でもあるため、世の中そのものがかつてない不安にさらされている現実の今、必要な教訓もきっと得られることだろう。

4:『ビフォア・ミッドナイト』(2013)

ビフォア・ミッドナイト 『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995)および『ビフォア・サンセット』(2004)の続編であり、出会いから18年という歳月を経たカップルが会話劇を繰り広げる内容だ。夫婦の間には双子の娘が生まれていて、夫には前妻との間にできた14歳の息子もいる。夫は息子が暮らすシカゴへの引っ越しを提案するが、パリで仕事を持つ妻はそれに反発する……ということが後の激しい口論の火種になっている。  ギリシャという美しい場所で、時には老作家の別荘でグループになって語り合い、時には街並みを歩きながら二人きりで哲学的な話もする。仕事や育児や性生活などにまつわる赤裸々な会話はそれだけで面白いが、この夫婦が完全に倦怠期に差し掛かっており、停滞した暮らしへの不平不満をお互いに溜めていることがじわじわと(時には強烈に)示されるのがスリリングだ。特に「破局までの時限爆弾のタイマーが作動した」という序盤のセリフは冗談めいてるからこそゾッとさせられたし、「この先56年一緒にいるとしたら、私の何を変えたい?」という妻の質問に対する夫のある答えには「わかる」「でも怖い!」という共感と不安が一挙に押し寄せた。  前2作を観ていなくても楽しめる内容だが、本作を観てから『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』に遡って観てみるのもオススメだ。なぜなら、そちらでは列車で出会ったばかりの夫が「タイムマシンで今この時間に戻ってきたとしよう」という仮定の話をしているからだ。このタイムマシンという言葉は、この『ビフォア・ミッドナイト』でも重要なセリフとして登場し、出会った頃にラブラブだった頃との対比を残酷なまでに示している。映画という媒体が、まさに自由に“その時”を観ることを可能にするタイムマシンでもあるというのが、なんとも皮肉的だ。

5:『レボリューショナリーロード 燃え尽きるまで』(2008)

レボリューショナリーロード 燃え尽きるまで 舞台は1950年代のアメリカ、2人の子供に恵まれ庭付きの一軒家に住んでいた夫婦が、妻のかつての夢だったパリ行きを目指したことから地獄にはまり込んでいく物語だ。客観的にみれば、パリに行くことで夫は仕事を辞めなければならないし、経済的にうまくやっていく保証もない、全く現実的ではない選択肢である。それでも妻が「政府系の女性事務員の給料は驚くほど高いのよ!」「あなたは仕事をしなくていいわ。私が働いている間に本当の能力を見つけて!」と主張する様は痛々しくて観ていらないほどだ。  主演はなんとレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットという『タイタニック』(1997)の2人なのだが、実際は「タイタニックみたいなロマンティックなラブストーリーを期待していたカップルにどんよりした気持ちになってもらおう!」という作り手の悪意としか思えないキャスティングだ。なぜなら、こちらはもはやホラー映画と呼んでも過言ではない内容なのだから。特に、終盤の言葉の暴力をぶつけ合う最悪の夫婦げんかを経た、“翌朝”のシーンは強烈すぎる。具体的に何が起こるかは書かないでおくが、夫婦の関係性としてのある種の“真実”がそこにあり、だからこそ絶望的な気持ちにもなってしまうことだろう。  これまで紹介した作品でも「本当にキツい!」と良い意味で思える夫婦のギスギスした関係や口論が描かれていたが、この『レボリューショナリーロード 燃え尽きるまで』は飛び抜けて毒性も地獄度も強い。そんなわけで、本作は夫婦で観ると本気で気まずくなってしまう可能性も大だ。可能であれば(今は難しいのは重々承知だが)夫婦別々で、1人で鑑賞してほしい。あと、独身が観れば本気で結婚したくなくなる。
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ホラー映画『来る』で家族との向かい方を学ぶ
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