新型コロナで議員歳費カットは単なる「やってる感」アピール。そんなにやりたきゃコロナ収束後にここを見直せ

歳費カットより効果的な支援を考えるのが議員の仕事

 今回の歳費カットの理由は、新型コロナウイルスで苦しむ人々に寄り添うためとのことです。自由民主党の森山裕国会対策委員長は「国民のみなさんと気持ちを一緒にする」ためと述べ、立憲民主党の安住淳国会対策委員長は「範を示す」と述べています。  しかし、国会議員が歳費カットすると、苦しむ人々にメリットがあるのでしょうか。例えば、国会議員の歳費をカットした分だけ、関係予算を増やせば、そうなるでしょう。衆参合わせて713人の国会議員がいますので、歳費を2割カットすれば、年間31億円の財源となります。少なくない額ではありますが、総額約17兆円の2020年度第一次補正予算案からすれば、微々たる額です。  苦しむ人々からすれば、歳費カットよりも、効果的で時宜を得た支援を国会議員に望むのではないでしょうか。どう考えても、17兆円の予算で31億円の増額を目指すより、国会議員がしっかり働き、予算内容を効果的にする方が、苦しむ人々にとってはありがたいでしょう。歳費カットで寄り添いの気持ちを示されるより、文字どおりのサポートを提供してもらう方が、助かるでしょう。  さらに、苦しむ人々は、貧困や障がい、その他の問題で恒常的に存在しますが、それらの人々には寄り添わないのでしょうか。国会議員が今回だけ歳費カットするということは、恒常的な問題で苦しむ人々には寄り添わないことも意味します。  そして、もし2割カットで何の問題も起きなければ、必要な歳費よりも2割高い額だったということになります。国会議員が、お手盛りで2割増しの歳費を受け取っていたということです。それも、なんだかおかしな論理です。  つまり、国会議員の歳費カットは、議員の「アリバイづくり」なのです。自分たちが、さも人々と同じ目線を持ち、頑張っているとアピールする手段に過ぎません。この先は、カット率の各党競争です。うちは3割、なんの5割と、まるでバナナのたたき売りとなるでしょう。実際、国民民主党の若手議員から5割カットの声があがっています。そのうち、ゼロ円(全額カット)の声も出てくるかもしれません。そうなったら、経営者・資産家などしか、国会議員になれなくなります。  こうしたアリバイづくりは、有権者から見透かされています。十年前ならば通用したかも知れませんが、単なる「頑張っているふり」と気づかれるようになっています。むしろ、そうしたアピールへの反発も見られます。  もう、こんな不毛な議論はこれで最後にしましょう。そんなことを議論する時間があれば、国会議員は地域の人々の生の声を聴き歩き、新型コロナウイルス対策の予算や法案、制度に反映させることに専念すべきです。

国会議員と政府高官をめぐるカネの見直すべき点

 一方、国会議員の歳費等について、見直すべき点が多いことは事実です。それらは、新型コロナウイルス問題が収まってから、じっくり議論すべきことです。そこで、見直しの余地について、どのような点があるのか、最後に整理しましょう。  第一は、首相や大臣等の政府高官、衆参議長と、国会議員歳費の差額です。首相は国会議員から選ばれ、大臣や副大臣等も大半が国会議員から選ばれます。議長も同様です。いずれも、国会議員としての役割です。それにもかかわらず、国会議員の歳費に給与や手当が上乗せされるのは、理解に苦しみます。  首相・大臣も、国会議員も、フルタイムでその任に当たり、いずれの役割も国に不可欠で、上下はありません。行政を監督するのか、それとも有権者の声を聴くのか、役割が異なるだけです。「同一価値労働同一賃金」の原則に立てば、同じ額でも問題はないはずです。同じ歳費で首相や大臣、議長をやりたくないならば、断ればいいのです。  よって、現行の国会議員の歳費をすべての国家公務員の給与の最高額とすることが考えられます。すなわち、首相、大臣、副大臣、政務官、議長、副議長、すべて国会議員歳費と同額にするのです。  第二に、国会役員の手当等の廃止です。委員長等の仕事は、国会議員しかできず、任命されたら国会議員として役割を遂行するのは当たり前ですから、日額6,000円の手当の根拠は説明困難です。これも手当なしでやりたくなければ、断ればいいだけです。  同様に、委員長等の個室・秘書・専用車も不要です。委員長室は、ほとんど使われない部屋と化していますし、その部屋にいる秘書役の国会職員も、ヒマなだけです。委員長として国会外に出かける用事もほとんどありませんので、専用車も不要です。委員会の進行については、秘書役と別に衆参事務局の委員部という、専任の補佐チームがいますし、調査についても、各委員会に調査室が置かれています。委員長と理事たちの会議の部屋も、国会内にたくさんあります。  第三に、文書通信交通滞在費と立法事務費、政党交付金の完全透明化です。ブラックボックスとなっているこれらの資金が、どのように使われているのか、1円単位で示すのです。それも、エクセルデータなど編集しやすいデジタルデータで示すことが大切です。  これらの資金は、地方議会での「政務活動費」に相当します。兵庫県議会など、各地で不祥事が多発し、地方議会では透明化が進んでいます。一方、国会ではブラックボックスのままです。これらの資金は、議員がしっかり仕事をしているのか、使途で示すものです。ですから、国会議員に仕事をしてもらうには、歳費カットよりもこれらの資金の透明化の方が有効です。  大切な視点は、説明のつかないカネ・待遇は廃止する、説明のつくカネ・待遇は徹底的に説明することです。この二点を徹底していれば、アリバイづくりの歳費カットなんて行わなくて済みます。  結局、このたびの歳費2割カット問題では、国会議員たちの公金に対する認識の甘さが露呈しているのです。そここそが、多くの人々から不信を抱かれている点であり、国会議員が正すべき点です。国会議員には、安易な歳費カットでなく、国会の信頼を高める王道を歩むことを期待します。 <文/田中信一郎>
たなかしんいちろう●千葉商科大学准教授、博士(政治学)。著書に著書に『政権交代が必要なのは、総理が嫌いだからじゃない―私たちが人口減少、経済成熟、気候変動に対応するために』(現代書館)、『国会質問制度の研究~質問主意書1890-2007』(日本出版ネットワーク)。また、『緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説 「安倍政権が不信任に足る7つの理由」』(扶桑社)では法政大の上西充子教授とともに解説を寄せている。国会・行政に関する解説をわかりやすい言葉でツイートしている。Twitter ID/@TanakaShinsyu
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