「自分でやってみる」から生まれた国会パブリックビューイング

ビデオカメラもなかったのに始めた、2015安保法制からの動画撮影

 映像の切り替え作業を一人で行いながらトークに参加するという技を見せた真壁さんだが、下記のしんぶん赤旗の記事にもあるように、動画撮影を始めたのは2015年の安保法制がきっかけだったという。
しんぶん赤旗「ひと」欄 2020年3月31日。

しんぶん赤旗「ひと」欄 2020年3月31日。

 3月25日のライブトークでは、真壁さんは2015年9月の安保法制可決成立後の国会前デモの撮影時まで、ビデオカメラも持っていなかったことが語られ、私たちはそれを、驚きをもって受け止めた。  今では真壁さんのYouTubeチャンネル(makabe takashi)には労働運動、市民運動、シンポジウムや集会、国会審議などの膨大な映像が収録されており、2.78万人がチャンネル登録している(4月10日現在)。最近は特に国会審議映像がよく見られており、ライブトークが行われた3月25日までの1か月の同チャンネル全体の延べ再生回数は500万回を超えた。これは1年前の同時期の同チャンネルの再生回数62万回超の8倍を超えている。  ではなぜ、真壁さんはデモの撮影に乗り出したのか。上掲の記事にあるように、彼は生協労連の専従役員だ。大学生の頃から大学生協の学生委員を務め、大学生協連の活動にも関わり、大学生協に就職(入協)。4つの大学の大学生協での勤務を経て2008年東京地区大学生協労働組合協議会の専従となり、2015年からは生協労連(全国生協労働組合連合会)の書記次長を務めている。  生協労連の役員である真壁さんにとって、2015年の安保法制の国会前デモに参加することは仕事の一環でもあった。けれども、そこで真壁さんは二つの独自の取り組みを行う。一つは「少しでも盛り上げたいと思って」、生協労連の旗にライトをつけて光らせたことであり、もう一つがデモの様子を撮影してYouTubeで配信することだった。  残念ながらライトをつけた旗については、写真は残っていないようだという。かわりに2015年6月24日の国会前行動における「光るプラカード」の写真を示しておきたい。  この「光るプラカード」を作った山田真吾さんは、当時、首都圏学生ユニオンの事務局長。山田真吾さんも国会パブリックビューイングのメンバーであり、2018年11月16日に有楽町イトシア前で入管法改正の街頭上映を行った際に看板を飾ったLEDテープは、2015年に彼が国会前で「光るプラカード」に用いたものだった。  真壁さんが2015年にデモの様子の撮影を始めたのはなぜなのか。3月25日のライブトークで彼はこう語った。 **********  全国組織の労働組合の専従だから、東京にいる人間は、直接自分で参加して、目に見えるけれど、各地方にいる仲間には見えないと。で、私も、その前から配信している人とか録画をアップしている人とかいて、こんなことが国会で起きているんだってことはある程度は知ってはいたけれど、リアルに見れるんだったら、自分はそこに行くんだから、ついでに撮ればいいだけなんだから、自分も撮ろうと。  で、撮ったら、見てくれる人がやっぱり、それなりにいるわけで、それだったらもっと、どんどんやろうというのが積み重なって、カメラが増えたり、ライブ配信が増えたり、次、あれもやってみたいな、これもやってみたいなというのが。 (中略)  シールズ(SEALDs:自由と民主主義のための学生緊急行動)とか若い人たちが声をあげているわけですよね、ある程度、リスクを背負って。そういうのに自分も、やはり、年齢的には先輩なわけであるから、自分ができる形でかかわる。別に押しかけるということじゃなくて、側面からサポートする、邪魔しない程度に、やれることは一緒にやっていきたいなと。 **********  ここには、国会前行動に参加した中での真壁さんの問題意識が現れている。自分よりも若い人たちがリスクを負いながら声をあげていることに対する問題意識。そして、地方にいる仲間はこの国会前の様子を見ることができていないという問題意識。そこから、自分ができることとして、そのデモの様子を撮影して配信するという真壁さんの行動が始まった。  その真壁さんの問題意識と行動は、自発的なものだったが、同時にそれは、国会前で行われている抗議行動、声をあげるシールズの若者たち、動画を撮影して配信している人たちといった、それまでに他の人たちが積み上げてきた運動をもとにして生まれてきたものでもあった。  そして、みずからが撮影した動画がYouTubeで見られるという反応の積み重ねを通して、真壁さんはカメラを増やし、配信を増やし、活動を広げていった。

2018年新橋SL広場で国会審議上映

 私が真壁さんと出会ったのは、2018年6月15日の新橋SL広場での国会審議の街頭上映当日のことだ(実はそれより前から、私の街頭でのスピーチを撮影してYouTubeに上げてくれていたのは真壁さんだったのだが)。その街頭上映の準備のためにツイッターのグループDM(ダイレクトメール)で真壁さんを含む10名ほどの関係者と話を始めたのは、そのわずか3日前の6月12日のことだった。  6月15日には「#0615 仕事帰りの新橋デモ」が予定されていた。日比谷公園から新橋SL広場まで、スーツ姿でデモ行進し、働き方改革関連法案に含まれていた高度プロフェッショナル制度(高プロ)に反対するデモだ。
仕事帰りの新橋デモ。2018年6月15日。

仕事帰りの新橋デモ。2018年6月15日。

 国会パブリックビューイングでたびたびゲスト解説をお願いしてきた伊藤圭一さんは全労連の雇用・労働法制局長で、この「仕事帰りの新橋デモ」の責任者だった。生協労連の書記次長である真壁さんも主催者側にいた。私はこのデモの終着点の新橋SL広場で数分程度のスピーチを主催者側から依頼されていた。  そういう状況の中で6月11日に国会審議の街頭上映を私が思い付き、その日のうちに、この6月15日の新橋SL広場でそれができないかと主催者側に呼びかけた。それを実現させたいと思った主催者側のある方が、実現に向けてツイッターのグループDMを6月12日に作ってくれた。そのグループDMで映像の編集ができる人として紹介されたのが真壁さんだった。  6月12日にそのグループDMに、私はこう書き込んだ。 **********  上西です。急な話ですが、よろしくお願いします。働き方改革の #国会審議街頭実況 とにかく一度、試みてみられないか、と。それが酷い国会審議の抑止にもなると思いますし、もしこのまま法案が通ったとしたら、省令づくりへのけん制に、また、施行前の注意喚起や参院選への影響力行使にもつなげていくぞ、と宣言しておくことは大事かと思います。 **********  そして、「せっかく上映するのならば」と、デモ隊が日比谷公園から新橋SL広場までデモ隊が歩いて来る時間帯に、同時並行でSL広場で街頭上映を実施したいと考えたのだ。  とはいえ、スピーチをするのとは違って、国会審議を街頭上映するというのはそう簡単な話ではない。スピーチのための機材は揃えられているとしても、国会審議映像を切り取って上映用に編集し、上映できるための機材をそろえ、何を上映しているのかの説明フリップも作る必要がある。誰が設営し、司会進行を担い、映像を上映し、スクリーンを支え、フリップを掲げるのか、それも決めていなければいけない。デモ隊との調整も必要だ。それを、お互い知らない者同士でツイッターのグループDMだけでやりとりをしていた状態だった。しかも真壁さんには「仕事帰りの新橋デモ」の主催者側の仕事がある。  そういう中で、真壁さんだけでは手が足りないということで、グループDMの中の関係者が映像に詳しい横川圭希さんを引き込んでくれた。けれど私は横川さんとも面識がない。横川さんと真壁さんも互いに面識がない。誰とどう話を進めればいいのか、果たして準備は間に合うのか。上映前日の6月14日の朝に、下記のやり取りを経て、ようやく流れが見えてきた状況だった。 ********** ●横川(6:03):この辺りの映像の使い方に関しては、早い段階で決めてもらえると助かります。映像の上映に関して、どんな形で用意するのか? を考えたいのでよろしくお願いします。 ●上西(6:07):映像の使い方について決めるために、スタッフからおひとり、代表を決めていただけないでしょうか。そうしたら、その方と上西と横川さんで詰めていけると思うのです。(中略)上映スタッフ代表は真壁さんということで良いですか? ●真壁(8:09):上西先生、前半部分の責任者は構いません。後半は(前半も?)新橋デモチームと調整します。前半の流れは、上西先生、横川さん中心に組み立ててもらうのが、一番現実的と思います。無責任にお二人にお願いする、という意味ではありません。 **********  ここで「前半」とあるのが、「仕事帰りの新橋デモ」のデモ隊が日比谷公園から新橋SL広場に向かう時間帯の国会審議上映のことで、「後半」とは、デモ隊がSL広場に到着したあとで、「過労死を考える家族の会」の方々などのスピーチと共に私が国会審議を上映しつつスピーチを行った部分を指している。  前半・後半ともに真壁さんは国会審議の街頭上映にかかわることになったわけだが、それはデモ隊の側から見るとなかなか困った事態であったらしい。「仕事帰りの新橋デモ」の責任者であった伊藤圭一さんはライブトークでこう語っている。 **********  あれ(「仕事帰りの新橋デモ」)もやっぱり、通常の労働組合のデモよりは市民的な目線からみて、うけるというものを検討していて。ところが、そっちはそっちで努力しているのに、直前ですごい企画が持ち上がって、勢いがすごい、と。しかも、主力メンバーの真壁が引き抜かれるというので、こっちはちょっと、内紛状態になって、おさえるのが大変だった。 **********
2018年6月15日新橋SL広場

2018年6月15日新橋SL広場。壇上が筆者。写真左で撮影しているのが真壁さん。右で帽子をかぶっているのが横川さん。

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市民一人ひとりが、街頭でやれることをやっている
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