「企業も大変だから、給与の保障を要求するのは気が引ける」という方もいらっしゃるかと思います。実際、先に取り上げたシフトカットの撤回と通常シフトへの復帰を実現した企業の組合員たちも、3月末以降のさらなる売り上げ悪化を目の当たりにして、「さすがに休業しないと企業がやっていけないのではないか」という不安を抱き始めていました。
飲食店ユニオンは組合員のこうした不安を汲みとり、企業に「雇用調整助成金を活用した大規模な休業の実施」を提案しました。
「
雇用調整助成金」とは、「
経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、一次的な雇用調整(休業、教育訓練または出向)を実施することによって、従業員の雇用を維持した場合に」支給されるものです(厚生労働省
「雇用調整助成金」)。新型コロナウイルスの影響の広がりを受け、現在、
新型コロナウイルスの影響で経営状況が悪化した事業主も助成対象となっています。
内容としては、
新型コロナウイルスの影響で経営状況が悪化した企業が従業員を休ませ、休ませた分の給与を休業手当として従業員に補償した場合に、その休業手当の90%を助成金として支給するというものです(90%というのは中小企業で解雇を行わない場合です。解雇を行った中小企業の場合は80%となります)。これを利用すれば、従業員の給与を減らさずに人件費を大幅に削減することが可能です。
飲食店ユニオンは、全額の給与補償を伴う大規模な休業を実施し、雇用調整助成金を申請することで、労働者の生活と雇用を守りながら大幅な人件費削減を行い、企業が生き残っていくという道を提案したのです。
「企業も大変だから」と我慢しないで労働組合に相談を
飲食店ユニオンには、「シフトが大幅にカットされたけど給与補償の話が一切なく、生活していけない」という相談が多数寄せられています。労働者が企業に対して声をあげなければ、企業は安易に労働者の生活を犠牲にして人件費を削減しようとしてしまうでしょう。そちらの方がお手軽だからです。
雇用調整助成金を活用すれば、企業も労働者もともに生き残っていく道があります。
労働者は「企業も大変だから」と我慢するのではなく、きちんと声をあげてほしいと思います。
ただし、雇用調整助成金は企業にとっては使いづらい制度かもしれません。例えば現行の制度では支給申請から実際の助成金の支給まで2か月程度かかるとされていますが、そんなに待てないという企業も多いでしょう。国には素早い支給を可能にする体制を一刻も早く整備してほしいと思います。
実は現在雇用調整助成金を活用した休業実施を話し合っている企業と飲食店ユニオンは、こうした助成金制度の不備についての問題提起を協力して行うことも検討しています。飲食店を経営する企業の方々にお願いしたいのは、労働者の生活を犠牲にして自身の生き残りを図るのではなく、労働者も企業もともに生き残っていくために様々な制度を活用し、制度が不十分であれば国にその改善を要求するという行動をとっていただきたいということです。
企業と労働者がともに生き残っていくために、労使双方が協力していくべき時です。そのためには
企業と労働者双方が声を上げることが必要でしょう。
<文/栗原耕平>
1995年8月15日生まれ。2000年に結成された労働組合、首都圏青年ユニオンの事務局次長として労働問題に取り組んでいる。