被収容者に手錠をかけて拘束。密室で行われる入管の暴力

「私は薬を飲みたいだけ。なんでこんな暴力を使うの?」

 仰向けにされたデニズさんは、激痛に「痛い! 痛い! 腕痛い! やりすぎ!」と叫んだ。Aは「はい、うるさいな」と、後ろから抑えられて首を固定されたデニズさんの喉に、親指を数秒間突き刺した。「痛いよ~!」と叫ぶデニズさんにAは「抵抗しないか!」と声を上げた。  デニズさんは「なんで、私は薬を飲みたいだけ。なんでこんな暴力を使うの? なんで私を殺したい!?」と必死に訴えた。  すると、職員の誰かが腕をねじ上げる。「ぎゃあ~、腕痛い! 腕、痛い! 殺さないで!」とデニズさんは苦痛の声を上げた。  その後、デニズさんは「懲罰房」と呼ばれる個室に移され、そこで5日間を過ごすことになる。  この扱いに納得のいかなかったデニズさんは、1月21日、「不服申出書」を提出し入管側に暴力行為があったことを認めるよう求めた。すると2月4日、意外にも入管側はその回答である「判定書」に「理由あり」との文字を載せた。これは、デニズさんの言い分に確かに理由がある、つまり入管側に暴力行為があったことを認めたということだ。  だがそれだけでは、具体的にどういう暴力行為を認めたのかは書かれていない。デニズさんが説明を求めても回答はない。

「入管の暴力行為は許せない」と、国家賠償請求

診断書

デニズさんは、延べ約3年半も長期収容されているため拘禁反応を起こしている。その診断書

 そこでデニズさんは、入管の暴力行為は許せないとの思いから、8月10日に大橋毅弁護士を介して国家賠償請求を起こしたのだ。  そしてその裁判のために、大橋弁護士が入管側にデニズさんが制圧された時の撮影映像の提供を求めたところ、これまた意外にも入管が映像を提出した。さらには、牛久入管総務課がAに制圧時の様子を尋ねた「電話記録帳」も提出された。  この2つの記録を見ると、入管側の暴力の実態が浮かび上がってくる。  電話記録帳によると、総務課の「親指で首の顎下部分を強く推したのは、制圧時の何か決められた方法なのか」との質問に対し、Aは「首の顎の付け目には2カ所痛点があり、話をまったく聞こうとしない場合に使用する」と回答している。  だが、映像を見ると、そのときデニズさんは後ろ手に手錠をされ、複数の職員に体を確保され身動きできない状態だった。その無抵抗な状態での暴力だったのだ。  また映像では、職員がデニズさんの口をふさぎ10秒ほど呼吸困難の状態にしているが、これについてもAは電話記録帳で「制圧時における混乱もあり、一瞬その職員が鼻と口をふさいだ形になったため、直ぐにやめさせた」と回答している。だが映像では、やめさせた指示はない。

次のページ
まるでアブグレイブ刑務所な日本の入管

1
2
3